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グローバル・エクイティ・オブザーバー
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2025年11月28日

拮抗した状況

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2025年11月28日

 
 

第2四半期(4-6月期)の運用報告では、4月初旬の「解放の日」における関税政策の発表後、株式市場は底を打って、市場の方向性と主導銘柄が大きく反転したことをお伝えしました。第3四半期(7-9月期)においても株式市場の上昇傾向は継続し、世界株式市場は+7%のリターンとなりました(以下米ドルベース)。結果として、MSCIワールド指数は、政策面や地政学的な面で不確実性が数多く残っているにも関わらず、年初来で+17%という驚異的なパフォーマンスを記録しました。

 
 
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株式市場では、強気派と弱気派の間で綱引きが起こっています。強気派は「AIが近い将来、企業の収益性を目に見えて改善する」、あるいは「米国の経済成長が急加速する」と主張しています。一方、弱気派は、こうした高い期待が実現しないことを懸念しています。
 
 
 

9月末時点で、MSCIワールド指数の予想利益に基づくPERは20倍超、S&P500指数は23倍という高い倍率で取引されています。このような高い倍率は、現在、過去最高水準にある企業の利益率がさらに改善し、今後2年間で二桁の利益成長を遂げるという期待に基づく予想利益を前提としています。実際、現在の歴史的に高いバリュエーションに織り込まれている要素を考えると、株式市場は、二桁の利益成長を支える、力強いAIブームの継続と、堅調なマクロ経済環境に賭けていることが解ります。また、金融緩和政策とAIによる生産性の向上が高い利益率を維持するといった確信も見られます。要するに、市場の期待感が高いということです。しかし、金価格が史上最高値を更新していることは、不確実性が依然として残っていることを思い出させてくれます。

過去6ヵ月間にわたるグロース株に偏った景気循環的な上昇相場の結果、S&P500クオリティ指数とS&P500指数のパフォーマンス比較が示す通り、クオリティ株は、広範な株価指数に対して前例のないほど大きくアンダーパフォームしています。これほどクオリティ株が劣後したのは、TMT(テクノロジー・メディア・通信)バブル崩壊の直前を除けば、過去に例がありません。歴史的に、クオリティ株が大きくアンダーパフォームした後には、しばしば長期にわたって、クオリティ株が市場全体に対して大きくアウトパフォームする局面が続く傾向があります。

私たちが想定する弱気シナリオの背景は、企業レベルでの生成AIの大規模導入には、予想以上に時間を必要とするため、ハイパースケーラー(巨大クラウド事業会社)の巨額投資に対するリターンについて不安が高まる事か、もしくはマクロ経済環境が二桁の利益成長予想を正当化できるほど強くない事です。長年の経験を持つ私たち運用チームは、高まった期待が下方修正される際、どれ程の痛みを伴うものかを身をもって理解しています。

過去150年間のデータを見ると、市場は現在、第4の「技術革新」時代にあるように見えます。これは極端なバリュエーションの上昇を伴っており、S&P500のCAPE(景気循環調整後株価収益率)1 は、市場トレンドを2標準偏差以上も上回る水準に達しています。過去に見られた3つの極端なバリュエーションの期間、すなわち1900年代、1920年代、そして最近のドットコム・バブルと比較してみると、市場のセンチメントが変わった際、市場全体で大きな
調整(上記3期間では15%から最大50%の下落)が発生するリスクが浮き彫りになります。このような調整局面では、最も過熱していた分野が最も大きな打撃を受ける一方で、過小評価されていたセクターは脚光を浴びる傾向があります。ドットコム・バブルの崩壊時には、生活必需品セクターがその恩恵を受けましたが、今回は「AIの犠牲者」とみなされているソフトウェア企業や、データを豊富に保有する金融や資本財・サービスのセクターが再評価される可能性があります。

インターネット導入期の「技術革新」時代に見られた過剰な熱狂と類似点はあるものの、現在の状況にはいくつかの顕著な違いも見られます。すなわち、現在のブームの中心にいる企業は、実際に利益を上げており、利益成長の勢いも依然として強いという点です。また、株価収益率(PER)は高い水準にあるものの、1999年当時と比べると決して極端な水準ではありません。もう一つの重要な違いは、今日の巨大ハイパースケーラーによる莫大な設備投資は、主に営業キャッシュフローによる自己資金で賄われている点です。このように、外部資金への依存度を抑えながら、
継続的かつ拡大的な投資が可能となっているのです。

しかし、不確実性は依然として残っています。現在の生成AIブームの核心には、ある種のパラドックスが存在しています。つまり、これほど経営陣の関心を集めた新技術は過去に例がなく、その可能性は実際に使った人なら誰もが認めるところではあります。しかし、企業による大規模な導入や企業にとっての価値の実現は、未だに極めて限定的なのです。このような状況の場合、典型的なガートナー社の「ハイプ・サイクル」をたどる可能性があります。つまり、たとえ最終的に成功し、変革的なインパクトをもたらすとしても、「過剰な期待(ピーク期)」の段階から、導入プロセスが難しく時間が掛かることが明白になるにつれて、「幻滅の谷(幻滅期)」の段階へ移行する可能性があるのです。さらに、政策面における高い不確実性、特に最終的な関税措置の影響や世界的な地政学リスクをめぐる不透明感もあり、マクロ経済的な見通しは不透明な状況が続いています。経済成長率自体はプラスを維持しているものの、マクロ経済の見通しは依然として控えめです。米国の成長率は2025年・2026年ともに1.5~2%程度、EAFE(欧州・豪州・極東諸国)においては1%前後にとどまると予想されています。

第3四半期(7-9月期)を通じて、株式市場は「AIが、特にデータ処理を中心としたビジネスを破壊的に変革するのではないか」という問題に強く関心を寄せるようになっています。市場の初期の反応は非常に幅広く、ビジネスモデルや競争環境、適応能力の違いを問わず、データ関連企業と見なされるほとんど全ての銘柄を無差別に売り込む動きが見られました。私たちは、このような市場の一律的な見方は誤っていると考えています。なぜなら関連する産業や企業の違いによって、無視できない重要な差異が存在するからです。私たちは、AIによる破壊的影響を受ける脆弱性と、売上およびコストの両方でAIがもたらす機会について、企業ごとに慎重に精査しています。

私たちの独自の企業分析には、いくつかの一般的な原則があります。私たちの見解では、AIによる破壊を回避できる「データリッチ」な企業とは、生成AIボットがインターネット上から収集する情報では模倣できない、独自のデータセットを保有しているか、もしくは顧客の業務プロセスに深く組み込まれたビジネスか、あるいは業界全体のエコシステムの中核を担っている企業であると考えています。さらにポジティブな点として、そのような企業は、AIを自社のサービスに統合し、顧客価値を高める十分な資金力と技術力を持っており、顧客対応やコーディングなどのコストを大幅に削減するために、AIを活用するでしょう。例えば、私たちがポートフォリオで保有しているRELXは、独自のデータセットと生成AI技術を組み合わせることにより、法務部門の売上成長を加速させています。また、別の保有銘柄であるSAPは、顧客の基幹業務に深く組み込まれていることや、確立された専門知識や知見を有していることから、AIによる破壊から守られています。SAPのJouleは、マイクロソフトのコパイロットを活用した生成AIで、追加的な収益源となる可能性があります。また生成AIの活用は顧客の次世代ERPシステム「S/4HANA」への移行を加速させ、利益拡大につながる可能性があります。私たちはまさに、このような高クオリティかつデータリッチな企業をポートフォリオに組み入れることを目指しています。

AIをめぐる議論が成熟し、どの企業が本当にAIによる破壊的影響を受けやすく、どの企業がAIを競争優位性として活用できるのかを株式市場が明確に見極めるにつれて、セクター内でのリターンのばらつきは、格段に大きくなると予想しています。一方で、株式市場が一律にデータ関連銘柄を売却する中で、当運用ではAIの影響について不確実性が残る一部の保有銘柄を売却しつつ選択的に入れ替えて、ポートフォリオをアップグレードする好機と捉えています。つまり、株式市場では、複利的効果の成長の芽を持つ優良銘柄まで一緒に売られていると考えます。

投資家の「確信」が極めて不確実な現実とぶつかり、またバリュエーションが過熱している市場環境の中で、私たちは依然として、力強い売上成長によって支えられ、確実なEPS(1株当たり純利益)成長を提供できる企業に焦点を置いています。EPS成長は売上成長と利益率上昇から成りますが、長期的に複利的にEPSが増加するためには、利益率上昇よりも売上成長のほうが、信頼できる源泉であると考えているからです。

 
 

1 CAPE:景気循環の影響を調整した株価収益率で、S&P500指数に適用される株式の評価指標です。 https://en.wikipedia.org/wiki/Cyclically_adjusted_price-to-earnings_ratio
引用データの出所は、特に記載がない限り、MSIM、FactSet、2025年9月30日現在。

 
bruno.paulson
マネージング・ディレクター
インターナショナル株式運用チーム
 
 
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本書は、インターナショナル・エクイティ運用チームが作成したレポートを、モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント株式会社が翻訳したものです。本書と原文(英語版)の内容に相違がある場合には、原文が優先します。

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