リサーチ・レポート
「資本財・サービス」セクター:商業・専門サービス業種において、AIによる破壊への懸念が、ニュアンス(微妙な差異)を見落としている理由
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グローバル・エクイティ・オブザーバー
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2026年2月3日
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2026年2月3日
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「資本財・サービス」セクター:商業・専門サービス業種において、AIによる破壊への懸念が、ニュアンス(微妙な差異)を見落としている理由 |
世界的な人工知能(AI)への設備投資競争には、減速する兆しはほとんど見られません。一方、株式市場は、多くの業種を先進的AI(Advanced AI)の「敗者」とみなしています。汎用化できる可能性があるデータを豊富に持っていることが、その理由のようです。しかし、多様な「資本財・サービス」セクター1の中でも、クオリティの高いニッチ分野、特に私たちが保有する商業・専門サービスの企業を分析すると、これらの事業は他の資本財サービス企業とは全く事なり、依然として高い参入障壁が存在し、多くの事例で、すでに先進的 AI を使ったビジネス機会を積極的に取り込んでいることがわかります。
外見に惑わされてはいけない
「資本財・サービス」というセクター名称からは、工場、煙突、組立ラインといったイメージを抱かせます。実際、このセクターでは「資本財」業種に分類される企業が、時価総額の70%以上を占めています。しかし、私たちが保有する「資本財・サービス」セクターの投資先は、こうした固定観念とは一線を画しており、設備等の資本財をあまり持たない「商業・専門サービス」業種に大きく偏っています。後ほど詳しく説明する「RELX」や「Experian」の他にも、例えば「Broadridge Financial Solutions」は、銀行向けに投資家用のコミュニケーションおよびテクノロジーを提供しており、むしろ金融セクターに属していてもおかしくない企業です。また「ADP(Automatic Data Processing)」は、給与計算サービスおよび関連する人事ソフトウェアの大手プロバイダーです。ADP は給与計算や人事管理、コンプライアンス・ソリューションに特化しており、実質的にはテクノロジー企業と言えます。また私たちは最近、「Uber」(資本財・サービスセクターの「運輸」業種に分類される)へも投資しました。この配車サービスのプラットフォームは、規模の拡大が進むにつれ、売上利益率と投下資本利益率を向上させています。
「資本財」業種に属する企業に、高クオリティの事業が存在しないと言っているわけではありません。例えば、エレベーター業界は、都市化や高齢化といった長期的な追い風に支えられた、構造的に魅力的な分野であると見ています。重要なのは、利益の大部分がエレベーターの新規設置ではなく、既設エレベーターを対象とした高い利益率の保守管理契約によって生み出されている点です。私たちはOtis Worldwide を保有していますが、同社の保守管理契約はグループ売上高の約半分でありながら、利益の75 % を生み出しています。これは、私たちが選好する堅牢なアフターマーケット(保守・サービス)型ビジネスの典型例です。同社のレジリエンスについては、コロナ禍のロックダウンの中で、エレベーターが使用されない状況下でも実証されました。当時、オーチスの既存事業の売上の減少幅はわずか2% にとどまり、メンテナンス関連の売上に至っては1%しか減少しませんでした。さらに、利益については約2% の増加を記録したのです2。
セクター全体に対する判断ではない
「資本財・サービス」セクターは株式市場の低迷に連動し易いため、私たちは、レジリエンス(強靭性)と長期にわたる構造的成長機会の両方を兼ね備えた、産業サブグループやニッチ分野を見極めることが重要だと考えています。個々の企業レベルでは、予測可能性と持続性を重視しており、保守サービス契約やデータ・サブスクリプションといった、強固なアフターマーケットや継続的な収益が発生するビジネスを選好しています。また私たちは、利益のクオリティ、競争優位性の持続性、経営陣の規律と実行力(運営面および資本配分の両面で)、そして下振れリスクについても分析評価を行っています。
このような点から、必然的に2025 年7–9 月期以降、市場の最大の関心事となっている中核的なテーマ、すなわち、先進的AI による破壊的影響の問題につながるのです。
データビジネスは、格好の売りの標的なのか?
ここ数か月間投資家の間では、生成AI やエージェント型モデルを含め先進的AIが、ソフトウェア産業やその他のデータ中心型のビジネスを破壊するのではないかという議論が続いています。この議論に対する株式市場の反応は、一律的で容赦のないものでした。つまり、事業が保有するデータに依存すると見なされた企業は、ビジネスモデル、データの種類、収益構造、エコシステムへの統合度合いに関係なく、一律的に売られ、株価が大幅に引き下げられたのです。こうした株式市場の一律的な判断によって、「資本財・サービス」セクター内では、著しいパフォーマンスの乖離が生じています。2025 年10 月31 日までの年初来パフォーマンスを見ると、「資本財」業種が米ドルベースで34%上昇という目覚ましいリターンを上げた一方で、私たちの保有銘柄が多く含まれる「商業・専門サービス」業種は5%下落しました3。
このような株式市場の「まず行動し、後で分析する」という反応は、新しい技術が注目を集める局面でよく見られる行動です。しかし、ニュアンス(微妙な差異)が重要です。前回のグローバル・エクイティ・オブザーバーの「全てのデータ関連産業が売りの対象に見える時」でも解説したように、データ中心型ビジネスの全ての企業が、一律的にリスクに直面するわけではありません。多くの場合、AI は既存のビジネスモデルを覆すというよりも、コスト削減や製品改善の支援に役立っています。
RELX(レレックス):印刷業から不可欠な情報インフラへ脱皮
私たちが2001 年から保有しているRELX を例に挙げてみましょう。同社が30 年かけて、紙面の出版社から高利益率の情報分析サービスの強豪企業へ変貌を遂げた軌跡は、広く知られるところです。デジタル事業からの売上は、2000 年の売上構成比の22%から現在は84%に拡大しています。営業利益率は1980 年代の約7%から、現在は約30%に向上しています。投下資本利益率(ROIC では無くROOCE)は、20%から約100%に上昇しています。売上高フリーキャッシュフロー比率は、4%から28%近くまで上昇しました4。
分析および意思決定ツールのグローバル・リーダーとして、同社の成功は、顧客の業務フローへの深い統合に基づいています。科学、法務、損害保険関連の情報において、同社の製品は日常的なプロフェッショナル業務に組み込まれています。売上の約80%はサブスク型か、継続的な売上であり、更に利益率が高く、キャッシュ創出力は強力と考えています。同社が保有するデータセットは、構造化され、独自性があり継続的に拡充されているため、AI は簡単には模倣できません。
RELXは現在の生成AIブームのずっと以前から、10 年以上にわたって保有データの自動化とAIの導入を進めてきました。経営陣は、競争上の「防衛的な堀」は価格ではなく、独自のツール群を正確に統合し、顧客ニーズに合わせて提供する点にあると強調しています。同社は、生粋のAI ツールと正面から競争するのではなく、信頼されるパートナーとして協働しています。安全なデータ環境と長年の顧客関係は、競合他社が簡単には取って代われない強みとなっています。
株式市場の懸念は、法務部門と損害保険関連部門(それぞれ売上の18%と36%を占める)にあります。これは、AI 支援による法務文書作成やリスク分析の登場が背景にあります。しかし、これらの部門こそ、顧客の業務フローへの同社のサービスの統合が最も進んでいる領域であり、同社の先進的AI がすでに付加価値を生み出している場所でもあります。例えば、法務向けAIプラットフォームの売上成長は加速しており、2025 年上半期に売上成長率は8%に達しています5。もう一つの例は、リスク・ソリューションの分野におけるAIを活用した不正検知プラットフォームです。このプラットフォームは、リアルタイムで疑わしい不正のパターンを特定し、顧客の金銭的損失を低減させると同時に、コンプライアンス体制の強化にも寄与しています。ここで重要な点は、独自データの保有です。効果的にAIモデルを学習させるためには、情報データの正確性、深度、信頼性が求められますが、RELX は、これらの面で優位性を持っていると考えています。
さらに重要な点は、RELX の経営陣が規律あるアプローチを維持していることです。既存ビジネスの着実な自力成長、高い利益水準、段階的な製品改良に注力しており、技術革新の荒波を乗り越えてきた強いレジリエンスの実績を誇っています。
Experian(エクスペリアン):差別化されたビジネスモデル、もう一つの堅牢な「防衛的な堀」
RELXがデータ活用型のプロ向け出版・分析サービスとして事業を展開しているのに対し、エクスペリアンは本質的に個人の信用情報や個人データの管理を主体とする企業であり、民間セクターで最も機密性が高く、厳格に規制されたデータを保有しています。中核データは、銀行から取得した信用履歴ですが、雇用・所得記録、公共料金や賃貸の記録、さらに銀行口座データの蓄積(個人が許可した場合)も進んでいます。米国では1,800 万人の顧客が「ブースト・プログラム(Boost Programme)」に登録しており、信用スコアの改善と引き換えに、自らの銀行口座データへのアクセス権を同社に提供しています。この「デジタルの砂金」6 とも呼ぶべき情報の大部分は、AI が収集できるような公開データではありません。また、エクスペリアンの優位性は、データの機密性や独占性だけにあるわけではありません。数十年にわたる専門知識の蓄積、顧客である金融機関との長年の取引関係、そして独自の「アセンド(Ascend)」という分析プラットフォームが、顧客企業のリスク評価や意思決定の業務フローに深く組み込まれている事も、大きな強みとなっています。
RELXと同様、先進的AI は、エクスペリアンにとって破壊的ではなく、むしろ有益である可能性が高いと考えられます。ソフトウェア開発の自動化はすでに進行中であり、25,000 人の従業員のうち約半数が技術者(うち7,000 人がアプリやサイトのコーディング担当)であることからも、自動化が進めば、大きな収益改善の余地があるでしょう。収益面では、「患者アクセス・キュレーター(Patient Access Curator)」がすでに普及し始めています。このツールは、米国の医療機関が患者を特定し、支払いの責任者を判断するための支援を行うものです。個人消費者向け事業では、AI アシスタント・サービスの「EVA」がすでに大きな成果を上げています。現時点では比較的シンプルな製品レベルにもかかわらず、すでに顧客の利用頻度を5 ~ 6 倍に向上させています。
消費者の信用情報が高度に規制され、プライバシー保護が重視されていることを考えると、競合他社が短期間でエクスペリアンのデータや信頼性の高い地位を模倣できるという考えは、短絡的と言わざるを得ません。独自データ、信頼性、顧客の業務フローへの統合は、データ集約型ビジネスにおける強力な「防衛的な堀」であり、エクスペリアンはまさにこの条件に合致した好例といえます。
市場の変動はチャンスをもたらす
革命的なAI技術に関する包括的なストーリーが広がる中、私たちは「資本財・サービス」セクターにおける商業・専門サービス業種の保有銘柄のファンダメンタルズを再度評価し、経営陣と面談の上で、AI による破壊の可能性について詳しく検証しました。私たちが引き続きフォーカスしているのは、高度なAI が普及する世界においても、信頼できる利益のレジリエンスと、持続性のある競争優位性を兼ね備えた企業です。このようなクオリティは、資本財・サービスセクターにおいて私たちが厳選した保有銘柄において、依然として揺るぎないものであると考えています。RELX とエクスペリアンは、イノベーション能力と代替が効かない不可欠な存在であることを示す好例であり、先進的AI による恩恵が、破壊のリスクを上回ることを示しています。私たちは、最近の株価下落は、過度に売り込まれた銘柄を改めて評価し、場合によっては保有比率を増やすことで、ポートフォリオを強化するチャンスであると見なしています7。
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マネージング・ディレクター
インターナショナル株式運用チーム
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マネージング・ディレクター
インターナショナル株式運用チーム
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