リサーチ・レポート
巨大な歪み
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グローバル・エクイティ・オブザーバー
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2025年4月16日
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2025年4月16日
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巨大な歪み |
「予測できないイベントだ、坊や、イベントだよ」— これは、英国の元首相ハロルド・マクミランが、若いジャーナリストから「政治家が最も恐れるものは何か?」と尋ねられた時に答えた言葉です。
私たちは現在、緊迫した予測不可能な状況に置かれています。東西の軍事的な緊張は高まり、中東は爆発寸前の危険な状態が続き、ロシアとウクライナの戦争は依然として緊張の中にあります。一方、ドナルド・トランプ前大統領は、上下両院で過半数を押えた共和党に後押しされ、ホワイトハウスに復帰しました。トランプ新政権が、経済や社会にどのような変化をもたらすか、世界中の注目が集まっています。
規制緩和、法人税減税、「アメリカ・ファースト」政策への期待から、株式市場はトランプ氏の勝利に素早く反応し、米国では「リスク・オン」による上昇とドル高が進みました。「トランプ・アジェンダ」は米国株式市場にとってプラスに働くかもしれませんが、多くの潜在的なマイナス要因もあります。特に、トランプ氏が提案した政策の多くに内在するインフレ・リスクはマイナス要因です。例えば、トランプ関税は消費者物価や企業のコストを押し上げる可能性があり、一方で大規模な移民の排斥は、米国内の労働コストを上昇させる可能性があります。インフレが発生した場合、米国連邦準備制度理事会(FRB)は現在の方針を変更し、金利を長期的に高く維持する必要性に迫られる可能性があり、潜在的に経済成長を抑制し、脆弱な企業のバランスシートを圧迫するかもしれません。さらに減税によって企業収益が増加し、その代償として、米国政府の財政赤字が増加する可能性もあります。そうなると、米国財政の持続可能性に対して、長期的な懸念が高まるでしょう。それらの結果として派生する対応政策とその影響が、どうであろうと、株式市場はさらに大きな不確実性に直面しつつあります。そして、その不確実性は、まだ株価には反映されていないように見えます。
巨大な歪み
現在起きている異常な状況は、政治に限ったことではありません。以前にも取り上げたように、投資家は、選択肢がますます狭くなる市場環境と戦わなければならなくなっています。MSCIワールド株価指数は、先進国の23ヵ国の大型株と中型株で構成され、世界の株価を代表する株価指数として設計されていますが、時価総額加重平均方式を採用しているため、歪みが大きくなっています。米国のハイテク大手(通称「マグニフィセント・セブン」)主導の株価上昇により、米国株式の構成比率が指数全体の70%を占めるまでになっているのです。1 株価指数の歪みは、株価のバリュエーションに影響します。MSCIワールド株価指数の時価総額の25%を占め、ほぼ全てがハイテクまたはハイテク関連企業である構成銘柄上位10社の株価は、12ヵ月先の予想企業利益の平均34倍にも達しています。2 これをMSCIワールド株価指数全体と比較すると、MSCIワールド株価指数の水準は12ヶ月先の予想利益の19倍となり、歴史的な高値に近い水準で取引されていますが、イコール・ウェイトの株価指数では15倍、米国以外の地域は14倍に過ぎません。このことから、バリュエーションに時価総額規模と地理的要因が大きく寄与していることが、明らかにみてとれます。3 MSCI米国株価指数とMSCIワールド株価指数(米国を除く)のバリュエーション・ギャップは、今世紀で最大の水準まで拡大しており、米国は他の地域に対して、50%以上のプレミアムで取引されていることがわかります。4
株価指数に極めて近い運用を行う投資家は要注意
株価指数に連動する運用成果を目指すファンド・マネージャーにとって、最近偏重されるトラッキング・エラー重視の運用アプローチは、見た目ほど絶対的リスクが低いわけではなく、実際には非常にリスクが高い可能性があります。私たちの経験では、企業の堅調な利益成長が続く限り、株式市場は高い予想株価収益率を気にしない傾向があります。しかし、企業利益の低下や減速があれば問題が生じる可能性があり、特に構成上位銘柄で歪んだ株価指数が完璧な利益成長期待を織り込んでいるように見える状況では、なおさらです。
2024年9月の「グローバル・エクイティ・オブザーバー:「独力で考える」(Independent Thinking)」で説明したように、私たちは常に株価指数に対して懐疑的でした。株価指数は分散されているように見えますが、投資家を現在の勝組銘柄に集中投資させる可能性があります。これは、振り子がどこに振れたかを追いかけているだけで、これからどこに振れるかを考えていないことになります。株価指数は企業のクオリティとバリュエーションを無視し、企業に対する確信よりも時価総額の規模を優先しています。これでは全ての銘柄を—“無差別に”所有することになり、私たちの長期的に絶対的リターンを追求する投資アプローチに合致しません。
アクティブ運用のケース・スタディ
アクティブ運用マネージャーとして、最近の株式市場の歪みは、私たちのポートフォリオに好機をもたらしました。結果として、魅力的なバリュエーションでいくつかの銘柄を新たに購入することができました。これらの企業の予想株価収益率は、株式市場全体と同水準でありながら、投下資本利益率と売上粗利益率は、市場平均の2倍以上もあるのです。(これらは、私たちが重視する高クオリティ企業の特徴です。)例えば、米国の自動車部品の大手小売企業は、卓越した資本配分の実績を示しています。また、ネットワーク効果により、参入障壁が非常に高い米国の大手先物取引所などが挙げられます。5 売上高に目を向けると、今年に入ってバリュエーションが上昇し、企業のファンダメンタルズを注意深く見直した結果、予想株価収益率(PER)や事業のクオリティのいずれかが、保有を続けるには、もはや正当化できないと判断した一部の銘柄は売却しました。
ベンチマークにとらわれない私たちの投資アプローチは、厳格なファンダメンタルズ分析に基づいています。四半世紀以上にわたって高クオリティ投資を行ってきた私たちは、あらゆる事態を乗り越えてきました。— すなわち、不況や戦争から、信用危機、パンデミック、インフレとデフレ、そして現在までの5人の米国大統領に至るまで。この28年間、私たちは企業のクオリティの不断の追求と割高な投資を避けるというコミットメントを中心に、規律ある投資哲学を貫いてきました。このような異常な時代であっても、私たちは強力な長期的パフォーマンスの原動力となるもの、—すなわち、高クオリティ企業のファンダメンタルズの複利的効果に焦点を当てています。
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マネージング・ディレクター
インターナショナル株式運用チーム
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