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To the Moon?クオリティ投資とブロックチェーン
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グローバル・エクイティ・オブザーバー
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2022年3月3日
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2022年3月3日
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To the Moon?クオリティ投資とブロックチェーン |
2021年も暗号通貨の年となりました。ビットコイン(約+97%)、イーサリアム(約+527%)、今や悪名高いドージコイン(約+4,486%)は全てS&P500(+22%)を劇的にアウトパフォームしました1。
世界金融危機の真っただ中であった2008年8月に、「ビットコイン:ピア・ツー・ピアによる電子キャッシュ・システム(Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System)」と題する9ページの論文が、暗号メーリングリストに仮名で公開されました。その2年後にLaszlo Hanyecz氏がピザ2枚と引き換えに10,000ビットコインを提供したことが、この新しい決済概念にとって初めて認められた商取引となりました。13年経った今でも依然としてビットコインは存在し、中央当局を介さずにインターネット上で価値を移動させるネットワークとして機能しています。たとえ、ビットコイン自体が安定した貨幣の代わりというよりも、投機的な資産となってしまったとしても、です。現在、10,000ビットコインは約4億7000万米ドルの価値があり、暗号通貨システムによる代用貨幣(トークン)の時価総額は約3兆米ドルに達しています2。
2021年11月には、遂にビットコイン連動型の上場投資信託(ETF)が初めて設定され、ETFとしては史上最速で総資産が10億米ドルに到達しました3。ビットコインを(ビットコイン先物ではなく)直接所有するETFは、まだ米国の規制当局である証券取引委員会(SEC)からの承認を待っているところです。
ブロックチェーン:基盤となるテクノロジー
ビットコインはブロックチェーンによって支えられています。ブロックチェーンは、経済学、暗号化/データベース構築、理論統計、そして時には哲学の間に位置し、複合的に理解している人が少ない学問分野であるため、多くの人にとっては馴染みにくい分野と言えます。また、自由主義を信奉する周辺の人々からの雑音が非常に多く、詐欺者によるインチキも横行しています。ブロックチェーンは当初、消費者主導の技術革新であり、プロの投資家や規制当局からは見放されていましたが、最近社名を変更したソーシャルメディア企業による、2019年のデジタル通貨プロジェクトが転機となりました。10億人以上のユーザーを持つ資金力ある企業が、多かれ少なかれ瞬時に規模を拡大して、システム的に重要なプライベート通貨を作る可能性があることに警鐘が鳴らされたのです。
ブロックチェーンがどのように機能するかについては触れませんが、重要なコンセプトとして、ブロックチェーンは新たなタイプのデータベース・アーキテクチャ(データベースの設計思想)であり、とりわけ金融サービス(だけには限定されませんが)における既存の多くのビジネスモデルを中抜きする(仲介業者をなくす)可能性があるということです。この新しいデータベース構造により、中央当局を介さずに、当事者間がインターネット上で価値を移転することが容易になります。また、自動的に実行される「スマート」契約やプログラム可能なお金(プログラマブルマネー)の作成も可能になります(詳細については後述します)。その存在と特性により、理論的には経済における検証やネットワーク構築のコストを低減させることが可能となります。
より具体的に言えば、現在デビットカードやクレジットカードの電子マネーを使って何かを購入する際、銀行や決済ネットワーク企業は、ユーザーが特定の商品やサービスと引き換えに加盟店にお金を支払う能力を有するか否かを検証し、手数料を徴収しています。複数の関係者が国境を越えて、対応する銀行取引記録の連鎖を通じた資産の移転を検証/監査する必要がある場合、検証コストはさらに高くなります。これが、国境を越えた送金が時間とコストを要する理由です。ブロックチェーン技術は、関係者全員がより簡単に監査できる方法で、そのような送金をより迅速かつ安価に実行することができます。ブロックチェーンのデータベース構造により、1つしかない「真実の情報源」である取引記録を、そのコピーを保存し、それにアクセスや追加できる多くの関係者に配布することができます。
また、ブロックチェーンは理論的には、新しいネットワークを構築する際の参入障壁を下げる機能もあります。今日、集中決済ネットワークを新たに構築しようとすれば、非常に高度な技術やセキュリティの初期コストが必要になります。ブロックチェーンのネットワークは、ユーザー、投資家、開発者へのインセンティブを活かし、時間の経過とともに極めて安価に構築することができ、またネットワーク自体のセキュリティも価値も、ネットワークの成長に合わせて拡張されていきます。検証とネットワーク経済におけるこの技術革新により、いくつかのクオリティ企業にとっては長期的な収益の安定性やビジネスモデルに影響が及ぶことになるでしょう。
ブロックチェーンがもたらす機会
ブロックチェーンの特性は、既存の産業に対してより高いクオリティが求められるという圧力を与えるだけでなく、中央集権的なシステム経済がこれまで実現できなかったクオリティの高いビジネスを新たに創出することも可能にすると考えています。ブロックチェーンによる既存企業への圧力は、産業内の現在の競争の激しい力関係を変化させ、自然な競争相手との協力、つまり「協力関係」を促進する可能性があります。その好例として、古めかしい紙の書式や印鑑に依存することがあまりにも多い、16兆米ドル規模の産業4であるサプライチェーン・ファイナンスが挙げられます5。ブロックチェーンの競争を受けて、銀行、コモディティ企業、荷主がまとまり、以前は困難だった方法でプロセスを標準化およびデジタル化しつつあります。こうして紙ベースの手法はデジタルに移行し、運用コストを大幅に削減し、効率性とスピードを高め、システムから担保資本を解放することになります。最も強気な予測では、これによりシステムにおいて1兆米ドルを超えるコスト削減の可能性があるとされています6。
ブロックチェーンのネットワークは、所有権を移転させるための重要な合意を伴う大規模な複数間ネットワークに最も適していますが、最終的な解決策は、新しい分散型ブロックチェーン企業ではないかもしれません。既存の中央集権的なデータベース上の現行システムを、アプリケーションを使用してアップグレードするか、より集中的な許可制のブロックチェーンを使用することが望ましい可能性もあります(これは現在のシステムとそれほど変わりません)。いずれにせよ、ブロックチェーンの存在は進歩を進めています。ブロックチェーンがもたらす現実的な脅威がなければ、多くの産業の既存企業は変革への推進力を欠くことになります(必然的に多くの場合、脅威が十分ではないかもしれません)。既に存在するシステムの周辺にだけ機会があるわけではありません。新しいアイデアや機能で、将来的に非常に高いリターンのビジネスになりうるものも豊富に存在します。例えば、顧客が美術品や不動産を購入できるブロックチェーンのネットワークは、複雑なオークションや弁護士の費用に取って代わることができます。
サプライチェーンの話を続けると、ブロックチェーンの新たな活用により商品の生産地が追跡できる技術革新が起こりつつあります。これにより、廃棄物が大幅に削減される可能性があります。ビットコインのような分散型ブロックチェーンのシステムではありませんが、米国の多国籍小売り企業は、ブロックチェーン企業のHyperledger Fabricと共同で、食品サプライチェーンの透明性を高めるための実験を行っています。これにより、大腸菌に感染した食品など、汚染された食品を精緻に特定してリコール(回収)することが可能になり、汚染の検出された場合に現状では無差別にリコールすることで発生している、膨大な無駄を排除することができます。
暗号通貨と中央銀行
変化への圧力は中央銀行にも及んでいます。今日、消費者には、中央銀行が直接発行する実物の持参人払方式の通貨(つまりは紙幣およびコイン)と銀行システム内の口座ベースの貨幣という2つの主要な貨幣の形態があります。ビットコインは、新しい形のピア・ツー・ピアの価値、つまり、あらかじめプログラムされた金銭処理を伴うデジタル無記名資産の形をしたプライベートな通貨の形態、という概念を実証してきたと私たちは考えています。プライベート通貨は新たな発明ではありませんが、デジタル・プライベート通貨は規模を拡大し、分散型チェック(小切手)を提供する可能性を有しています。
さらに、このデジタルでプログラム可能な無記名資産には、多くの新しい機会があります。決済システムの安全性を高めることができるのです。従来は、現金は口座ベースのデジタルマネーに代わる合理的な代替手段でした。しかし、現金の使用が減少し、決済システムを運営する民間企業にシステム的に依存するようになると、リスクが生じます。主要なカードネットワークがハッキングされたり、単に壊れたりしたらどうなるのでしょうか。もし中央銀行が仮想通貨としてのデジタル貨幣を発行できれば、実行可能な代替デジタル決済システムを構築することができます。また、中央銀行が発行する仮想通貨には、現在のシステムには存在しない付加的な機能が含まれる可能性もあります。たとえば、中央銀行の金利(プラスまたはマイナス)に自動的にリンクさせることなどです。これは、特にマイナス金利の場合、その実質的な効力は現物の現金の存在によってより制限されるため、興味深いものと言えるでしょう。シンガポール、カナダ、中国、スウェーデンは、先進的なデジタル通貨プログラムをテストしています7。私たち運用チームが投資しているポートフォリオ企業の1社は、スウェーデン銀行のためにE-kronaプロジェクトを運営しています。
トークン(仮想通貨)の広がり
トークンは、新しいデジタル無記名形式の現金を作る以外にも、代替が可能なものも代替が不可能なものも含めた、様々な方法で構成される可能性があります。いくつかのトークンはユーティリティ・トークン(サービスやコミュニティへのアクセス権)として設計されます。例としてアーケードゲームやコインランドリーを1度だけ使うトークン(使用権)を思い浮かべていただくと分かりやすいと思います。また、より株式に近い構造となっており、報酬プールや利益に対する理論上の権利を与えているものもあります。他のトークンには資産をデジタルに示すものもあり、これには代替可能な不換紙幣を表す安定したコインから、例えばデジタルアートに対する所有権を表すNFT(Non-Fungible Token:代替不可能なトークン。他にも物理的なアートや自宅の所有権を示すこともある)も含みます。カスタマイズ可能なトークンの性質により、金融や資産移転を伴う他のあらゆる分野を開くことが可能になります。
トークンは他にも、ビジネスの資金調達に流動性をもたらす方法の一つでもあります。ICO(Initial Coin Offering:暗号通貨の新規発行)について聞いたことがあるかもしれませんが、その仕組みによって、プライベートのベンチャーキャピタルの資金調達やコストが高い新規株式公開プロセスを、ローカルで閉鎖的なものから、グローバルに誰にでも開かれたものに変える可能性を秘めています。資産のトークン化は金融サービスの枠を大きく超える可能性があります。理論的には「モナリザ」をトークン化することもでき、絵画の所有権をより身近で流動性の高いものにすることが可能です。「モナリザ」トークンの所有者は、「モナリザ」を鑑賞するためのチケット収入に対する権利を獲得することができます。今後数十年の間に、「モナリザ」トークンのようなものが、強力なフランチャイズに関連する将来のグローバル株式戦略で保有される可能性は、決して低くはありません。
既に投資中
ところで、なぜ私たちはこのようなことに関心を持つのでしょうか。それは、私たちの運用戦略で保有している企業の多くは既にブロックチェーンに投資しており、ブロックチェーンから利益を得るための新しいサービスを生み出しているのです。例えば、ある多国籍のプロフェッショナル・サービス企業は、スウェーデンの中央銀行であるスウェーデン国立銀行(Riksbank)の主要パートナーとして、すでに名前が挙げられています。世界最大のソフトウェア企業の1社は、同社のプラットフォームである「Azure」上で世界最大級のBAAS(Blockchain As A Service:ブロックチェーン開発/運用のプラットフォームをクラウド上で提供するサービス)を稼働させています。これにより顧客は、ブロックチェーンのネットワークを展開し、信頼のおけるアプリを構築し、データをオフチェーン(ブロックチェーン以外の場所)でも保存することが可能になります。多国籍のITサービス企業の1社も、自社のクラウド製品である「Leonardo」と統合したBAASを提供しています。ある米国のテクノロジー複合企業はブロックチェーンの検索エンジンを構築しており、スマート・コントラクト(コンピュータープログラムによって自動化された契約)のために現実世界からデータ信号(これはオラクルとも呼ばれます)を提供するブロックチェーン・プラットフォームであるChainlinkと提携しています。ある世界的な決済企業は、不換紙幣(つまり通常の貨幣)から暗号決済を可能にすることに尽力しており、また、暗号資産における主要なカストディ・プロバイダーの1社であるAnchorage Digital社に投資するなど、ブロックチェーンに対する多くの実験と多額の投資を推進しています。あるシンガポールの金融サービス企業は、ハイパーレジャー(ブロックチェーンの標準の開発基盤)を使用して貿易金融を近代化することを目指すイートレード・コネクト(eTrade Connect)というコンソーシアムに加盟しています。現段階では、これらが会社の事業に占める割合は大きくありませんが、10年後を考えると極めて重大な比率を占めている可能性があります。
問題解決の可能性
こうした「価値のインターネット(Internet of Value、つまり多様な資産を瞬時に交換すること)」の開始は、まだごく初期の段階です。現在までのほとんどのコンセプトは、厳しく制御された実験環境の外では、規模を拡大しても適切に機能しません。ブロックチェーンは、経済的に実行可能な方法で現実の課題を解決できると証明する必要があります。克服すべき課題は山積しており、スケーラビリティ(拡張可能性)、スピード、プライバシー、セキュリティ、環境への影響/つまり過大なエネルギー消費、ガバナンスなど、様々な課題が含まれています。顧客の本人確認(Know Your Client)、マネーロンダリング防止、一般データ保護規制(GDPR)、投資家保護の問題はすべて規制当局によって検討されていますが、ブロックチェーン組織を既存の金融サービスに適合させる場合と新たなフレームワークを作成する場合とでアプローチは異なります。世界的に共通して注目されているのは、証券取引所が既存の金融システムとブロックチェーンを調和する事です。
大志を抱く?
将来がどうなるかを語るのは非常に難しいのですが、あえて言えば、中央集権的な拡張性のあるシステムが概ねうまく機能する場合(たとえば1秒間に約2000件の取引を処理するグローバル決済会社のプラットフォームのような場合)では、ブロックチェーンは既存企業のイノベーションを促進し、これら企業が現在行っている多くの機能の一部で価格(つまりコスト)を引き下げる可能性が高くなります。このような場合、解決すべき大規模な問題はなく、むしろ改善すべき事柄が次々と出てくることがよくあります。しかし、これまでは既存企業が変化に抵抗し、のんびりした紙ベースの価値移転が当たり前だったものの、新しいブロックチェーン企業によって既存の資産移転の検証方法が完全に置き換えられる可能性は十分にあります。一方で、眼前の最大の障害の1つは規制ですが、ブロックチェーンが公共政策にどのように適合するかという枠組みができれば、制度的な導入の可能性が更に高まり、進歩が再び加速することになるでしょう。
多くの著名な投資家やエコノミストは暗号通貨を軽蔑しています。ドージコインはチューリップマニア(オランダ黄金時代にチューリップ球根の価格が異常に高騰し突如下落した歴史事実の比喩)になるかもしれませんし、ドージコインの公式ソング8のように「To the Moon!(どこまでも価格が高騰していくこと)」になるかもしれません。HODL(Hold On for Dear Life:暗号通貨を、長期的に買い持ちすること)するドージアーミー(ドージコインの崇拝者たち)は、未来がどのようなものになるか、もっと想像力を働かすようにと、私たち全員に正しい挑戦状をたたきつけているのです。
https://medium.com/blockdata/blockchain-closing-the-1-5-trillion-gap-in-trade-finance-8a3f8ce912a4
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マネージング・ディレクター
インターナショナル・エクイティ運用チーム
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