リサーチ・レポート
多様性 – 難問を投げかける
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グローバル・エクイティ・オブザーバー
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2022年6月29日
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2022年6月29日
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多様性 – 難問を投げかける |
3 月に国際女性デーと女性史月間を迎え、私たち は多様性というテーマと、それに対する私たちの 取り組み方について取り上げたいと思います。 世界中のステークホルダーが、多様性、公平性、 包括性(DE&I)の透明性と説明責任を高めるよう 雇用主に求めており、具体的な目標、具体的な 行動計画、明白な改善への期待が高まっています。
ビジネス上のケース
マッキンゼーの2020年版レポート「Diversity Matters: How Inclusion Wins」によると、経営陣のジェンダーが多様な最上位 4分の1の企業は、平均以上の収益性を有する割合が最下位 4分の1の企業よりも25%高いことが分かっています1。ボストン コンサルティング・グループの調査によると、経営陣の多様性 が平均以上である企業は、経営陣が同質な企業よりもイノベー ションによる収益が19%高く、営業利益率も高いことが分かって います2。MSCIの調査によると、ジェンダーの多様性が高い 取締役会では、汚職、賄賂、詐欺などの企業不祥事が少ない 傾向にあることがわかりました3。
人種および文化の多様性についても、同様に説得力ある結果が得られています。マッキンゼーの調査によると、2019年の収益性の観点から、人種的な多様性の高い経営陣が、多様性の低い経営陣を36%も上回ることが判明しました。実際、その分析によると、性別よりも人種によってアウトパフォームする可能性が引き続き高くなっています4。
DE&Iの評価は困難。データ不足が深刻な問題
目標の変更、国による違い、地域によって異なる規制の進展 具合など、これら全てが測定可能なものを突き止めるうえで事態 を複雑にしています。例えば、英国における男女間の賃金格差 (Gender Pay Gap:GPG)データは、男女間の不平等を大まか に把握できる点では有用ですが、内容が粗く範囲が限定されて いるため、なぜ賃金格差が存在するのかを診断することは困難 です。米国では、企業は雇用主情報レポート(EEO-1)により 横断的な多様性データを報告することが義務付けられて いますが、この情報を公開している企業はほんの一握りです5。 さらに難しいことに、多くの国では企業が社員に人種や民族の 開示を求めることは違法であり、多くの国でGPGの報告義務は ありません。
事実、多くの企業において、女性やマイノリティは上級職に就くことができず、また多くの産業において、より広い範囲の労働力に占める割合が低くなっている
女性の人的資本開発への明らかなマイナスの影響以外に、経済的な問題、つまり賃金格差があります。世界経済フォーラム2021「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート」によると、世界の賃金格差は現在37%、所得格差(女性の賃金と賃金以外の所得の合計と男性のそれとの比率)は51%近くに達しています6。
ジェンダーだけではない
黒人、アジア人、その他の少数民族は、一般的に組織全体に占める割合が低く、特に上級職では顕著です。マーサーの調査によると、米国で最も代表的に割合が低下しているのは、黒人/アフリカ系アメリカ人の従業員で、彼らはサポートスタッフの役割では12%を占めるものの、幹部レベルの役職ではわずか2%しか占めていません7。
状況を把握する
もちろん、インクルージョンは統計にとどまらず、文化にも及ん でいます。「エクスペリエンスマネジメント」の専門企業である Qualtrics が行った世界規模の調査によると、パンデミック発生 当初から企業文化が改善されたと答えた従業員はわずか37% で、63%は改善されていない、もしくは悪化したと考えて います8。 「エクスペリエンスマネジメント」の解決に投資する ことで、マネージャーや人事担当リーダーが従業員の声を聞く 事を促進し、彼らが洞察に基づく行動を起こす事が可能となり、 社員の体験とエンゲージメント(関与)を改善します。これは、 研修の実施にとどまらず、積極的にフィードバックを求める事、 信頼関係を構築するための環境づくりに及びます。
成果につながるインセンティブを
デロイトの調査によると、2020年2月から2021年1月まで の株主総会の招集通知を調査した結果、フォーチュン100社 (米フォーチュン誌が年1回編集・発行するリスト)のうち、役員 インセンティブプランに環境、社会、ガバナンス(ESG)指標 を組み込んだ企業は40 % 未満でした。ESG指標を役員 インセンティブプランに組み込んだ企業では、社会的な指標が 最も一般的であり、環境指標がそれに次ぎます9。社会的指標 ではDE&Iの指標が最も一般的であり、DE&Iとしては比較的 良いスタートと言えますが、実際の状況では、ほとんどの企業が まだ環境と社会(E&S)のインセンティブを受け入れておらず、 リーダーシップはDE&I目標の達成に対する説明責任を欠いて いることになります。
では、投資先企業のDE&Iにどうアプローチするのか
外部からの視点は難しいので、経営陣と直接エンゲージメント するのがベストな方法だと考えています。私たちのDE&I エンゲージメントのチェックリストには、以下のようなものがあり ます。
成果につながるエンゲージメントの重視
グローバルに事業を展開する飲料メーカー2社に対し、取締役会を欧州人一辺倒から、より各国市場を代表する者にするよう、以前から強く求めてきました。新たな人事のもと、実際に変化が起きていることを嬉しく思います。データに関しては、医療技術関連企業の1社に対して、人種的公正に関する報告書とEEO-1の性別・民族的多様性に関するデータの開示を求める株主提案(私たちはこれを支持)が出されたため、これを議論するためにエンゲージメントを実施しました。同社はEEO-1データを米国政府に報告していることから、私たちは、なぜ一般に公開しないのかと質問しました。同社は現在、新しいD&Iレポートの一部としてEEO-1データの一部を開示する予定です。
また、保有する世界有数のデジタル・マネジメント・コンサルティング会社では、2025年までに従業員の男女比を50%ずつに、2025年までに女性管理職を30%にするという目標をどのように達成しようとしているのかについて調査しました。この目標を達成するために、米国、英国、南アフリカの各事業所では、民族的代表性の目標を掲げ、すなわち、多様な候補者枠の利用を標準化し、管理職には多様性を推進する責任があり、柔軟な勤務制度が整備されています。しかし、同社の「コンテンツの修正事業」における労働条件に対しては、我々は懸念を表明し、今後も監視を続けていきます。
次のステップは?
私たちのDE&Iに関するエンゲージメントは、データの公開、透明性の向上、インセンティブの調整、変化のための信頼できる道筋を求めるとともに、投資先企業に対して、多様性の向上と事業戦略との関連性を検討するよう働きかけています。
もっと身近に。
投資先企業と同様、私たちも独自の道を歩んでいます。数年前 にはゼロだった女性の運用者が、今ではチームの3分の1弱 を占め、運用者とポートフォリオ・スペシャリストを合わせると チームの46%は女性です。8名のマネージング・ディレクターの うち、3名は女性です。DE&Iをリードするシニア・ポートフォリオ マネージャー兼マネージング・ディレクターのBruno Paulson は、 MSIMのEMEA地域におけるダイバーシティ・フォーカス委員 会を率いており、マネージング・ディレクターのLaura Bottega は、MSIMのビジネスにおけるジェンダー面のダイバーシティを 推進したことで、英国のInvestment Week誌による2019年の 「Contribution to Diversity Award」のMSIM受賞につながり ました。また、エグゼクティブ・ディレクターのMarte Borhaug は、サステナブル・アウトカムズ部門の責任者として、英国企業 に多様性と包括性を奨励する投資家グループ「30% Club」の 共同議長を務めています。
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マネージング・ディレクター
インターナショナル・エクイティ運用チーム
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Head of Sustainable Outcomes
インターナショナル・エクイティ運用チーム
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エグゼクティブ・ディレクター
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