リサーチ・レポート
温暖化の進行
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グローバル・エクイティ・オブザーバー
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2021年11月17日
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2021年11月17日
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温暖化の進行 |
今夏の北半球では、太平洋沿岸の北西部でニューヨークの空が赤く染まるほどの大規模な山火事があり、ドイツでは壊滅的な洪水、シベリアでは熱波、トルコ、ギリシャ、イタリアでは未曽有の大火災、中国では千年に一度の豪雨に見舞われました。科学者たちは、これらの現象が地球温暖化によってどの程度効果を増大したのか(つまり地球温暖化の進行により乾燥が進み、以前は雨が多く火災の少なかった地域で火災が発生、そして暖かい空気がより多くの水を運び、遠く離れた大陸で集中豪雨と壊滅的な被害が発生)を評価しています。ジェット気流(北半球を周回する高い高度の風)が乱れているとすれば、過去の気象パターンが将来のパターンを予測するのに役立つかどうか、極端な気候現象の発生確率はどうなるのかが疑問視されます。また、この夏の火災や洪水により、災害復旧計画が河川の本流だけでなく支流に対しても正しく適用されているかどうか、河川の自然な流れを崩すダムの役割、熱波にもハリケーンのような名称と評価を付与すべきかどうか、気象学者は一般大衆にどのような警告を伝えるべきなのか、などの問題が提起されました。
200人以上の科学者がまとめた「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の報告書が8月に発表され、現在の世界の発展パターンからほとんど変化しないと想定した緩やかな排出シナリオであっても、今後20年間で気温が2.1 ~ 3.5度上昇することが示唆されました。より低い気温上昇の目標を達成し、氷河の後退や北極の氷の消失、海洋温暖化といった不可逆的な事態を避けるためには、温室効果ガスを「直ちに、迅速に、かつ大規模に」削減する必要があり、そのなかでも特に天然ガス田や家畜から発生するメタンは、二酸化炭素よりも温暖化係数が非常に高いため注目が高まっています。
欧州連合(EU)の「Fit for 55」における政策提言は、気候リスクの危険性がより切迫したものとなっていることを背景に、真剣に受け止められる可能性が高くなっています。欧州委員会は、炭素税の増税や汚染産業に対する新たな炭素国境調整(すなわち炭素関税)の計画を策定し始め、2035年までに欧州全域でガソリン車やディーゼル車の販売を段階的に廃止し、一方で再生可能な産業を奨励し、大気中の炭素収支を均衡させるために不可欠な森林などの生態系の炭素吸収源を保護しようとしています。また、不平等に焦点を当てた変革の風潮は、コスト上昇により不利益を被る人々を支援するための社会気候基金(SocialClimate Fund)の提言にも表れています。米国の民主党は、これを受けて炭素輸入関税を提案し、気候政策へのハードルを上げようとしています。一方、中国は独自の国家排出量取引制度を開始し、今や世界最大規模となりました。
そうしたなかで、我々のチームは気候変動について何を考え、また、ESG(環境、社会、ガバナンス)の重要性や持続可能性に対する懸念が高まっているなかで、我々はどのように責任を果たしているのでしょうか?
我々は、気候変動は様々なリスクと機会を企業にもたらすと考えており、企業の投下資本利益率の持続可能性にとって重要かどうか、どの程度重要なのかを含め、これらの問題は我々が個別に検討すべき最優先の課題です。排出量削減への道筋は、低炭素ソリューションを提供する企業に機会をもたらす可能性がありますが、課税やカーボンプライシングなどを含む規制によって利益が減少する可能性もあります。異常気象により、物理的な資産が損なわれたり、事業活動が妨げられたりする可能性があります。エネルギー転換により、座礁資産や無駄な投資が発生する可能性があります。また、適応していない企業や、競合他社よりも動きが遅い企業は、評判を落とし、顧客を失う可能性があります。
ESG要因に対する統合的なアプローチの一環として、気候変動に対する企業の立場を評価するために、我々は投資先企業に対して直接的なエンゲージメントを求めています。各企業は、それぞれ問題点が異なれば、取り組み方も様々であり、概して脱炭素化への道程も異なるステージに位置しています。我々の気候変動や炭素に関する企業とのエンゲージメントでは通常、ガバナンス、目標、透明性、実施方法、進捗状況、物理的なリスク、製品・サービスの機会、ステークホルダーとの連携(アラインメント)などの分野を取り上げています。
我々のグローバル株式ポートフォリオは、ボトムアップで常々、他のセクターと比べ無形資産が多く有形資産が少ないセクターに投資しており、物理的な資産割合が小さく、極端な事象に対する物理的リスクが他のセクターと比べて低いというメリットを有しています。ソフトウェアの主な保有銘柄は、売上高あたりの炭素排出量が少なく、顧客が環境への影響を測定および最小化を助ける、需要が非常に高いツールを販売するといった新たな機会を有しています。保有する生活必需品およびヘルスケア企業の工場や物流車両により生じる直接的な排出量は株式市場平均よりも大幅に低いものの、我々は彼らの取り組みに対して変わりなく注目しており、これらのエンゲージメントでは通常、持続可能な部品調達や包装、他の間接的な効果(スコープ3)といった分野に焦点を当てています。
2021年上半期の間に、我々は81回にわたって投資先企業とESG課題に関するエンゲージメントを行い、そのうち55回は環境問題に焦点を当てました。我々は投資先企業の脱炭素化戦略について体系的かつ集中的にエンゲージメントを実施しています。しかし、脱炭素化だけでは環境改善は達成できません。企業(およびファンドマネジャー)は、余剰天然資源の過剰な消耗、廃棄物や水の使用量、そしてそれらの生物多様性への影響に関する意識を高め、それらに対する解決策を見出す手助けをする必要があります。そのため、我々は企業との体系的なエンゲージメントのなかで、幅広いESGのテーマ、とりわけ当該企業にとって重要かつ密接に関連するものに焦点を当てています。我々はこれらに対し身を粉にして働いています。
気候変動や地政学的な問題における不確実性の高い環境、また、世界中で新たなCOVID-19の変異株が減少するどころか増加するような状況の中で、我々は引き続き潜在的な機会に注意を払いつつも慎重な姿勢を崩さず、持続可能な利益とキャッシュフローを重視し、ESGを意識した経営に対して資本を投入し、バリュエーション規律を重視しています。
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マネージング・ディレクター
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