リサーチ・レポート
アクセラレーター(加速装置)としてのコロナウイルス
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グローバル・エクイティ・オブザーバー
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2020年6月5日
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2020年6月5日
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アクセラレーター(加速装置)としてのコロナウイルス |
何年か先に、コロナウイルスが世界的にもたらした影響を振り返ってみると、ウィリアム・ヘイグ(英国の保守党の前党首)が、コロナウイルスは既存の勢力とトレンドを強く加速させたと語ったことは正しかったこととなるかもしれません。
世界のパワーブロック(国際政治力発揮のために提携した数か国)に与える影響を見てみましょう。欧州連合では、北欧諸国が南欧諸国の債務を返済すべきかどうかをめぐる既存の緊張を差し置いて、健康危機が最前線に浮上してきました。同時に、米中の争いは一層激化し、結果として貿易/グローバル化における争い、世界の外貨準備通貨としての米ドルの将来の役割に関する争いを伴っています。コロナウイルスの経済への影響は、迅速なロックダウン(都市封鎖)と効果的な検査、追跡の実施をしたアジア地域経済の被害が欧米諸国よりもはるかに少なく見えることから、アジアの世界的優位性を加速させています。コロナウイルスにより、何千万人もの人が失業に陥り、不平等の深刻化、債務負担の増加、国家権力の増強などによって、政治的緊張が高まる可能性があります。これは、現代貨幣理論、債務の帳消し、法人税率の調和、国家によるベーシックインカム(最低限所得保障)の提供、企業がすべての利害関係者に対してより広範囲な責任(負債の削減/より多くの国内生産/税金支払い)を示す事など、先端的な政策を推進するでしょう。そして、我々の各々についてのデータを誰が所有しているのか、そしてその情報がどのように利用されうるのか、という問題があり、国家と個人の間に新しい境界がどこにあるのか、という議論が生じるでしょう。
株式運用者として、我々はこれらのトレンドが個々の銘柄や業種固有のトレンド(我々が保有する高クオリティで高リターンのセクター)に与える影響や、保有銘柄への効果に焦点を当てています。
アクセラレーター(加速装置)の効果は情報技術の周辺で特に顕著です。私たちがグローバルのポートフォリオで所有している米国の大手情報技術企業のCEO、Satya Nadella氏は、「コロナウイルスは、企業の在宅勤務移行に伴い、2ヶ月で2年分のデジタル変革をもたらした」と主張しています。この情報技術企業は、コミュニケーションおよびコラボレーション・プラットフォーム、クラウドサービスの提供によって、このような自宅勤務への移行環境において企業向けテクノロジーの勝者となりました。コロナウイルスは、国境を越えた取引の崩壊が一時的な逆風となっていますが、イーコマースの成長と伝染の恐れによるキャッシュ(現金)からカードへの移行を促進しているころから、長期的には決済会社の成長という既存のトレンドを加速させています。このようにコロナウイルスが加速させた変化は、ハイパースケール・クラウドサービスやソーシャルメディア・ネットワークなど、寡占的な情報技術大手の経済的優位性を助ける可能性が高い一方、不平等、政府債務、プライバシーに関する懸念が並行して高まっていることから、これら情報技術企業に対する政治的・規制的リスクは今後数年間、注意深く見守る必要があると思われます。
コロナウイルスは、明らかに産業としてのヘルスケアの重要性を示しており、ヘルスケア・システムが一般的に十分安定しているか、あるいは、より良いインフラが必要かどうか、という点に光を当てています。より多くの資金が必要になれば、貯蓄から捻出できる企業は上手く立ち回れるでしょう。我々のメドテック企業にとって、コロナウイルスはデータを使用するだけでなく、データを持つことの重要性を強調しています。これは、診断および検査機器企業にとって有利な追い風になると考えています。とりわけ、医療上の決定の70%が診断によって情報提供されており、診断がコストに占める割合は2%未満であると考えれば、なおさらです1。病院への不必要な移動を避けることが、ヘルスケア・システムの不必要なコストを節約する方法であることを認識すれば、遠隔監視や在宅透析など遠隔医療を通じた在宅医療の加速につながる可能性があります。
生活必需品企業にとって、コロナウイルスは大きなブランドが重要であることを示してきました。小売企業は、先進国の消費者が購入し易くて知名度が高く、信頼できるブランドに着目しているため、中規模ブランドと需要の少ない小規模ニッチ・ブランドを売り場から積極的に除いています。それは、信頼こそがブランドの持つ最も強力な特性であり、最大限の尊重をもって扱わなければならないということをCEOに再認識させます。これにより、ブランドのコミュニケーションは、マーケティングから消費者が重要と考えるものへ、目的を押し付ける事から製品の優位性や社会・環境への影響に関するものへとの移行が、加速するでしょう。
ソーシャル・ディスタンスとロックダウン(都市封鎖)は、すべての年齢層にイーコマースの短期集中講座の機会を与えてきました。いったんオンラインで買い物をすることを覚えると、消費者は外出をし、小売店に足を運ぶ生活に戻る可能性は低くなります。経営陣がデジタル機能に早くから投資した企業は、コロナウイルスによる打撃から同業他社よりも強く再浮上できる可能性が高いです。我々が保有する、フランスの美容品企業と英国の消費財企業は、既にイーコマースによる売上が市場全体の20%と10%を占めており、利益率と市場シェアはオフライン(従来型の店舗販売)以上となっています。
いずれの場合においても、企業のレジリエンス(回復力)と、この危機を通しての成功の展望は、経営陣のクオリティにかかっています。そうは言っても、顧客と共にあり続けるためのイノベーションへの投資や、ステークホルダーの要請を理解し対応することは必要ですが。我々は、質の高い投資には有能な経営陣の重要性を常に強調してきましたが、それは世界的な危機に直面した今、さらに明白なものとなりました。
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マネージング・ディレクター
インターナショナル・エクイティ運用チーム
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エグゼクティブ・ディレクター
インターナショナル・エクイティ運用チーム
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