リサーチ・レポート
新たな世界におけるクオリティ
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グローバル・エクイティ・オブザーバー
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2021年9月14日
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2021年9月14日
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新たな世界におけるクオリティ |
我々が運用する最も長期の実績を有するグローバル株式戦略が設定されてから直近までの四半世紀において、高クオリティのコンパウンダーの優位性が証明されています。高クオリティのコンパウンダーは、2001年から2003年のテクノロジー・メディア・通信(TMT)セクターの暴落時や、2008年から2009年の世界金融危機時において金融セクターが大打撃を受けた際にも、価格決定力と継続的な収益の組み合わせにより、市場全体を大幅に上回る収益をあげてきました。また、このような優れた業績にも関わらず、特にフリーキャッシュフロー利回りをみると、市場平均と比べて僅かに上回る水準でしか取引されていないこともプラスに働いています。
リフレとインフレが起こる「新たな世界」では、高クオリティ企業とコンパウンダーは悪戦苦闘するという憶測もあるかと思いますが、我々の見解では、インフレ傾向が強い状況に移行したとしても、こうした企業は引き続き繁栄することになると考えています。
たしかに昨年は、相対的にクオリティ株にとっては好ましくない状況でした。最初の問題は、パンデミックにおける情報技術セクターの多くの勝ち組に対して投資家が熱狂し、2020年にグロース株ブーム(グロース相場)が起きたことです。我々の見解では、このブームの一部がバブルに転じ、一部銘柄が極端に高いバリュエーションとなり、また、SPAC(特別買収目的会社)を中心とした過度に投機的な投資も見られました。我々はバリュエーション規律を設けているため、このような熱狂に参加することはありませんでした(極端に割高な銘柄を保有しないため、それら銘柄のパフォーマンスを享受しなかったという意)。さらに、2020年10-12月期と2021年1-3月期には、著しいワクチンの開発と普及のスピードが好材料視され、回復のペースが急加速しました。その結果、金融、素材、資本財・サービスなどのバリューセクターや景気循環的な回復が見込まれるセクターは、「リフレトレード」によって業績予想が大きく改善し、我々のポートフォリオの多くを占めるディフェンシブなセクター(とりわけ生活必需品とヘルスケア)を凌駕しました。
昨年のグロース株バブル(グロース相場)は2021年には幾分弱まっており、情報技術セクターにおける最も割高なグループ(情報技術セクターを割高な順に5つのグループに分類)の年初来リターンは3%上昇にとどまり、その他4グループの平均である12%上昇を下回りました[1]。最も割高なグループのバリュエーション(24か月予想利益に基づくPER)の中央値は、130倍から110倍程度にまで低下しています1。(これは、株式ベースの報酬をコストから除外することができればの話ですが、そうでなければこのグループの中央値に位置する銘柄は損失を発生させていることになります)。そのため短期的には、シクリカルトレード(またはリフレトレード)の余地がどの程度残っているかの議論に尽きると思います。
今後、さらにポジティブな利益成長のサプライズがあるのか、シクリカルなセクターの収益にどの程度のアップサイドが残されているのか、また、2020年3月以降に(生活必需品が32%、ヘルスケアが42%上昇にとどまった一方で)素材が82%、金融が74%上昇したことで、好材料がどの程度株価に織り込まれたかは不透明です1。2021年4-6月期では、シクリカルなセクターが全般的に市場全体よりもやや出遅れており、バリュー相場の勢いが衰えている可能性を示唆しています。
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マネージング・ディレクター
インターナショナル・エクイティ運用チーム
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インフレ観測
現在の好景気がインフレを引き起こすのではないかと懸念されており、実際に多くのコモディティ商品や製品では既に価格が急騰しています。しかし、どの程度が一時的なもの(つまり需要が急増しパンデミックによって供給が制限された結果)で、どの程度が永続的なものなのかは、まだ明らかではありません。インフレ圧力の大部分は、需要が正常化し供給が回復するにつれて実際には薄れていくことがコンセンサスのように思われますが、これは政府がブレーキをかける必要がなくなることを意味します。
鉄鉱石など、いくつかのコモディティ商品が長期的に妥当と想定される価格を上回っていることには我々も同意します(これは生産者が現在、過剰に利益を得ている可能性を意味します)。注目すべき重要なインフレ変数は賃金の伸び率です。サービス中心の経済においては、半導体や木材といった「モノ」のコストよりも、「ヒト」のコスト(つまり人件費)の方が重要です。その一方で、市場は中央銀行の意向を表す、とてつもなく小さなシグナルに執着しています。
現在の景気回復の時期と強さを考慮すると、インフレ率が上昇した世界においては、クオリティ株がどのような運命を辿るのかという、長期的な懸念が市場には存在しています。予想されるインフレの経路について我々は強い見解を持っているわけではありませんが、一時的なインフレと永続的なインフレの両方に関して十分な検討を行った上で、高インフレの環境下においてもクオリティ企業は繁栄できると確信しています。
重要な点として、基本的にインフレは実質的な現象ではなく、名目的な現象であることが挙げられます。インフレは表面的な売上高成長率を加速させますが、その効果は物価水準の上昇によって相殺されるため、幻想にすぎません。とはいえ、インフレは特に低クオリティの企業にとっては有益との主張もあります。「お金の錯覚」により、実質的に成長していない企業が成長していると錯覚してしまいます。これは、インフレ率が低い現在ではありえないことです。また、インフレは資産の多い企業の会計上の利益を助長する可能性があります。これは、売上高が資産の簿価とそれに伴う減価償却に比べて相対的に増加するためです。インフレ下で低クオリティ株を擁護する最後の議論は、名目金利が上昇しても低位株は値がさ株に比べて割安でデュレーションも短い(金利変動による業績変動性が低い)ため、インフレによる割引率上昇の影響を受けにくくなるということです。これは数学的にも理にかなっています。ただし、長期的な名目成長率がインフレ率や割引率と並行して上昇する可能性が高く、PERへの影響を相殺してしまう可能性が高いという事実を無視した場合の話です。
コンパウンダーは引き続き魅力的
全体として、このようなインフレで得るものは低クオリティ企業にとっては「実質的」でも「経済的」でもなく、したがって一部の金融セクター(金利上昇で利益を実現できる)を除き、長期的な影響をもたらす可能性は低いと考えています。また、高インフレの世界では高クオリティ企業にとって、2つの重要な相対的にプラスとなる要因が存在することを主張したいと思います:
一つ目は、インフレによって企業は投入コストの上昇に対処しなければならないということです。我々がコンパウンダーに求める重要な特性の一つである価格決定力を通じて、これらのコストを顧客に転嫁できる企業は、魅力が高いといえます。
もう一点は、現体制下ではインフレ抑制のために頻繁な政府介入が必要となり、経済サイクルの短期化が促進されることです。過去数十年間は、政府が物価上昇抑制のために景気を減速させる必要がなかったことから、経済サイクルは前例がないほど長くなっており、インフレが問題となった場合にはこの状況は持続しそうにありません。景気後退が頻発する世界では、コンパウンダーの継続的な収益は、安定的な利益をあげるための貴重な源泉になるでしょう。
究極的には、よりインフレが進んだ世界でも、コンパウンダーにとってはほとんど大差がないのです。景気サイクルを問わず実質的に安定した収益をあげることができる企業は、過去数十年と同様に市場を上回る収益をあげ続けることができるでしょう。投入コストが上昇し、経済の不確実性が高まる世界では、価格決定力と継続的な収益がさらに重要であることは、ほぼ間違いありません。
過去1年間に収益が40%上昇した後においてさえ、今世紀初頭のTMTバブル以来で初めてMSCIワールド・インデックスの予想PERが20倍であるという、株式市場が高騰している世界において、依然としてコンパウンダー企業は魅力的です。様々なことに言及してきましたが最終的にお伝えしたいことは、現在の市場には大きなバリュエーション・リスクがあるのに、なぜ収益リスクまで取る必要があるのか?ということです。
本書は、インターナショナル・エクイティ運用チームが作成したレポートを、モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメント株式会社が翻訳したものです。本書と原文(英語版)の内容に相違がある場合には、原文が優先します。
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