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議決権行使:進歩の後押し
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グローバル・エクイティ・オブザーバー
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2022年11月4日
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議決権行使:進歩の後押し |
オーナーシップを持つ長期投資家として、私たちは、議決権行使が長期的な投資リターンを向上させる役割を果たし、また、企業の取締役会や経営陣がそのことに関心を高めていることを高く評価しています。そのため、私たちは議決権行使を外部に委託することはありませんし、これまでもそうしてきました。
運用を開始して以来、私たちのポートフォリオ・マネジャーは、長期的な投資リターンを最大化するという目的に沿って、慎重かつ勤勉に、お客様の利益を最優先に、議決権を行使することを追求してきました。私たちの議決権行使は、主に経営陣のインセンティブや取締役の任命など、ガバナンスの課題に関するものが中心です。また、社会・環境問題に関連する議案については、議案で特定された課題の妥当性とその影響の可能性を判断し、ケースバイケースでどのように投票するかを検討します。私たちは、実施されれば有用な情報開示の強化や経営慣行の改善につながる議案に対しては、ほとんどの場合賛成票を投じています。
資本主義は複数のステークホルダーが参加するように進化し、スチュワードシップ規約への要請が強まり、国連責任投資原則(国連PRI)への署名機関が増加し、サステナブル・ファンドへの資金流入の増加により、過去20年間に上場企業の株主の、議決権投票行動が大きく変化してきました。ハーバード・ロースクールのコーポレート・ガバナンス・フォーラムは、こうしたコーポレート・ガバナンスに対する監視の強化を、ほとんど革命的と呼ぶにふさわしいものと捉えており、「企業と株主の対話の重要な一翼を担うものとして議決権行使が使われるようになった・・・投票はもはやコンプライアンスの実践ではない」、と主張しています1。 その結果、ESG(環境、社会、ガバナンス)への配慮と、注目される課題に対する姿勢の透明性は、企業やその利害関係者において大きな検討事項となっています。大手議決権行使プロバイダーのBroadridge は、「気候変動から人種的不平等まで、企業がこれらの問題に真剣に取り組むことへの期待はかつてないほど高まっている」と述べています2。2021年までの5年間で、株主提案に対する私たちの支持率は着実に上昇し、 2017年の34%から2021年には40%に達しました2。 例えば、The Children's Investment Fundの「Say on Climate」イニシアチブは、驚くほどの迅速さで定着するなど、多くの株主提案が単に風の中を舞っているだけのものではなくなってきました。
2022年における記録更新
2022年の米国の議決権行使シーズンは、株主提案の提出数が過去最高の924件となり、非常に多かった2021年を大きく上回 りました3。 例えば、米国の大手テクノロジー企業は、2022年の年次総会(AGM)で17件という極めて多くの株主提案を受領しました。今回の投票シーズンでは、特にESGに関する議案が活発で、人種的平等、セクハラ問題、男女間の賃金平等など、 社会関連のいくつかの議案が初めて大きな支持を集めました2。 興味深いことに、今年は、多くの提案が支持されず、特に環境関連の議案が規範的すぎるとされました4。
その他の変化も進行中です。今年5月に米国上院に提出されたインデックス投資の議決権行使に関する法案に先立ち、あるグローバル資産運用会社が、自社のインデックス戦略の一部について、機関投資家向けにパススルー議決権(インデックス投資での議決権行使)を提供したことが話題になりました。このように、企業に対する要求が高まっているだけでなく、パッシブ投資を行う有力な運用会社の支配を超えて、発言者の範囲が広がりつつあります。
ハードルの克服
このように業界が大きく発展しているにもかかわらず、効果的な投票を行うための課題は残っています。
第一に、情報格差がしばしば存在しています。経営陣は、株主が議決権を行使する上で必要な情報をすべて開示しているとは限りません。だからこそ私たちは、エンゲージメントと議決権行使の2つの役割があると堅く信じています。集中型のポートフォリオを運用し、多額のお客様の資産の代弁者であるファンダメンタルズ重視のマネージャーであるため、幸運にも、私たちは平均的な投資家以上に企業の経営陣と近い距離に身を置くことができています。投資先企業と長期的な関係を築くことができる立場にあり、私たちのポートフォリオ・マネジャーは、投資先企業と建設的で、しばしば数年にわたる対話を行っています。概して、年次総会に先立ち、我々は投資先企業と議決権に関する議題を検討する機会を持ち、時には企業から招かれる事もあります。
私たちは、しばしば給与プランについてのコメントを求められることがあります。私たちが保有する英蘭系消費財メーカーの場合、役員報酬について以前から対話を重ね、十分な進展が見られないと判断した場合には、その報酬プランに反対票を投じています。またEPS目標については、レバレッジを効かせた買収など長期的には株主の利益にならない可能性がある短期的な考え方を助長する可能性があるため、この目標を取りやめるよう求めてきました。また、業績が悪化した後には、給与の減額を要求してきました。最近になって、今年の給与総額が35%減少、EPS目標が廃止、私たちが要求していたESGに沿ったインセンティブが含まれるようになったことを嬉しく思っています。
また、企業が事業に関連する外因的結果の代償を払うことに直面する事で、長期的に株主のリターンに影響を与える可能性のある問題についても、企業から質問を受けることがあります。例えば、あるアメリカの多国籍消費財メーカーからは、持続可能な森林管理、紙製ティッシュやタオルの製造方法について、株主提案決議の前に詳しい話を伺いました。その結果、同社が改善に取り組む姿勢に勇気づけられるとともに、より慎重な見方ができるようになり、森林破壊に関する情報開示の充実を求める株主決議案に賛成票を投じました。
第二の課題は、決議文は「正確な文言が重要」であるため、適切な精査が必要であるということです。特に、株主提案の場合はその傾向が強まります。例えば、今年初め、ある多国籍医療機器メーカーに対して、抗菌薬に対する薬剤耐性についての報告を求める株主提案がなされました。しかし、私たちが株主総会前に同社との話し合いを行った結果、同社は抗菌薬(抗生物質)に関する重要なエクスポージャーを持っていないことが判明し、この提案は同社にとって不要なものであることがわかりました。そのため、私たちは本提案に対して反対票を投じました。
第三に、実際には「株主持ち分が分散しているため、議決権行使による変革が困難」である場合があります。私たちは十分なリソースを持つチームであり、ポートフォリオ・マネジャーが直接エンゲージメントを実施し、独自の議決権行使を行うことを可能にしています。また、特定のテーマについて、選りすぐりのパートナーとの協働が有効な場合もあります。例えば、私たちは現在、持続可能な食料システムの実現に注力し、企業に対してエンゲージメントを行う有数のNGOであるFAIRRと協働しています。
投票はどこに食い込むことができるのか?
変化を促すには、どのようなクリティカルマス(急速に拡大する 分岐点)が必要なのでしょうか。経営陣の意向に沿った議決権行使は通常高い水準にあります。Broadridge によると、2021 年の取締役に対する株主の平均支持率は94%、役員報酬議案に対する支持率は88%で、2017年からほぼ安定しています5。(一方、私たち独自のフレームワーク「Pay X-Ray」を用いた綿密な分析により、過去12ヶ月間、私たちのグローバル・ポート フォリオに対する投票のうち、役員報酬議案で経営陣を支持 したのは59%に過ぎません)6。とはいえ、「反対票を投じる」 キャンペーンが成果を上げるためには、実際に議案が否決される必要はありません。プライスウォーターハウスクーパース(PWC)は、支持率が60~70%台に下がれば、「株主が不満を抱いているという厳しいメッセージを送ることになると見ています。また、メディアによる詮索を招く結果となり、取締役の評判に影響を与える可能性がある」と述べています7。昨年は、より多くの取締役が立候補する一方で、過半数の支持を得られなかったり、この支持率70%の基準を超えられなかったりする取締役も増えました2。
成果を促す
フィットネス計測バンドは、ユーザーが1日に目標とする歩数を歩くように誘導することで、時間の経過とともに健康的な体型になることを可能にします。これは、2008年に米国の経済学者リチャード・セイラーと法学者キャス・サンスティーンによって提唱されたナッジ理論のコンセプトであり、それは、規模感は問わずに人々に介入し、人々を長期的に最善の利益のために行動させて、著者らが意思決定における「スラッジ」と呼ぶもの(上記例の場合、運動をサボること)から回避させることに、成功しました。株主提案の中には、話題作りを目的としたものもあり、より社会的でアクティビスト的な議題を求めて議決権行使を行う投資家もいます。しかし、それは私たちのスタイルではありません。私たちは、システミック(全体的)な問題を一夜にして解決することはできず、議決権行使と組み合わせたエンゲージメントは短距離走というよりもマラソンのようなものと考えています。長期的な経済成功やフランチャイズの耐久性に関わる重要なリスクや機会に焦点を当てた経営陣との対話を通じて、企業が特定の課題(例えば脱炭素化)に取り組むための強固な基盤を構築することを望んでいます。そうすることで、時間をかけて進歩を促していきたいと考えています。
2022年の議決権行使シーズンを振り返って8
4-6月期は、議決権行使と年次総会が集中するため、2022年6月30日までの過去12 ヶ月間を振り返るのに適切な時期です。私たちは、経営陣や、ISSのような第三者の議決権行使アドバイザーに異を唱えることを恐れません。私たちのグローバル株式戦略で保有する企業と実施した全面談のうち80%において、経営陣に対して少なくとも1つは異を唱えるトピックがありました。グローバル株式戦略全体では、全投票のうち13%が経営陣の推奨に反対し、8%がISSの推奨に反対しています。
環境・社会関連の株主提案を受けた場合、その課題の関連性と考えられる影響を判断し、投票方法を慎重に検討します。私たちのグローバル戦略全体では、気候変動、多様性、従業員と株主の権利などのトピックについて、44件のESG関連の株主提案がありました。全体として、私たちは戦略全体における株主のESG提案を64%支持し、64%のケースで経営陣に反対票を投じました。
また、株主の権利に関する決議も数多く行われ、例えば、臨時株主総会を招集するための最低保有株数の引き下げ案に賛成票を投じました。この基準を引き下げることで、株主の権利が強化され、経営陣に対して重要な問題を提起することが可能になると考えています。
決議事項以外では、役員報酬が引き続き重要な焦点となりました。私たちは、グローバル戦略全体における経営陣の報酬に関する決議案の41%に反対票を投じました。また、報酬に関して長年にわたり未解決の懸念がある場合には、私たちのメッセージを伝える意味で、報酬委員会の委員に対しても反対票を投じました。また、多様性に関する懸念がある場合には、指名委員会のメンバーに対しても反対票を投じました。過去12ヶ月の間、合計で15人の取締役に反対票を投じました。
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ESG調査責任者
インターナショナル・エクイティ運用チーム
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エグゼクティブ・ディレクター
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