リサーチ・レポート
決済方法のこれから
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グローバル・エクイティ・オブザーバー
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2020年8月5日
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2020年8月5日
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決済方法のこれから |
我々は単純化するために、投資を利益とバリュエーションに分解しています1。元本保全に配慮していますが、株式投資の損失については、これが生じる要因が減益となるかバリュエーションが低下するかの二通りしかないという考え方を維持しています。日々の個別銘柄レベルの判断だけではなく、市場全体にも同じ考え方を適用しています。
消費者がより便利な電子決済を利用することにいったん慣れてしまえば、COVID-19以降の世界では、現金から電子決済へのシフトは構造的に高水準になり続けるはずであり、電子決済量の成長は中期的に年率12%を超えると予想され、この部門にとっては魅力的な追い風となります2。
決済関連領域は複雑で、異なる役割や価値を提案する参加者が多数存在します。大まかに言えば、カード発行会社、カードネットワーク会社、および加盟店契約会社の3つの主要カテゴリーがあります。カード発行会社は、主に銀行やクレジットカード会社で、リテールやホールセール顧客にクレジットカードやデビットカードを発行しています。カードネットワーク会社は、決済のインフラと、権利や資金の交換のための規則書を提供します。加盟店契約会社は、決済を受け入れる店舗またはウェブサイトとカードネットワーク会社との接続を提供します。
例えば、顧客がカードを使って地元のスーパーマーケットでCOVID-19に関連して沢山積み込まれたショッピングカートの代金を支払う場合、カード読取端末は支払いの承認を求めるメッセージを加盟店契約会社に送信します。加盟店契約会社は、カードネットワーク会社を通じてメッセージを送信し、それがカード発行者に転送されます。カード発行者が、カードが支払に適していることを確認した場合、その承認はカードネットワーク会社を経由して加盟店契約会社に、最終的にはスーパーマーケットに伝達されます。使用するカードの種類と地域に応じて、消費者が購入する$100.00の買い物につき、スーパーマーケットは約$98.00-$99.00を受け取ります。一方、加盟店加盟店契約会社は$0.10-$0.20の報酬を受け取り、カードネットワーク会社は$0.20の報酬を徴収し、カード発行会社は一般的に$0.60-$1.30を受け取ります3。一見すると、カード発行会社が最も利益を上げているように見えますが、実際には、彼らは報酬の一部を消費者に、航空マイルやキャッシュバック、あるいは為替手数料の引き下げといったインセンティブの形で還元しています。
カードネットワーク – 決済経済圏におけるレジリエントな(耐久性がある)部分
伝統的に、ビザ(Visa) とマスターカード(Mastercard) という2つの純粋なカードネットワーク会社は、経済圏における最も魅力的な独占企業でした。彼らは消費者のネットワーク、商店のネットワーク、金融機関のネットワークという、新規参入者に対する3つの重複した強力な防御壁(堀)を持っています。これらの重複した濠堀は、破壊することが非常に難しいことが証明されています。垂直的に統合された事業者、国内のカードネットワーク会社、新興の電子決済プロバイダーなどがありますが、これらがビザやマスターカードに対抗するには、政府の規制変化によって競争環境が変わること、多額の資金が必要であることが証明されています。これら代替手段の大半は、ビザやマスターカードに対抗するための投資規模、国際的なリーチ、サービスの質に欠けています。これにより、ビザとマスターカードは、現金からカードへの移行が世界的に続く中、成長市場で安定した支配的な市場シェアを維持することができるようになりました。
加盟店契約会社 - 進展中
加盟店契約業務の大半は、特にヨーロッパでは依然として銀行によって行われています。歴史的には、それは銀行が顧客に提供する商業銀行サービスの一部でした。時間の経過とともに、この事業に内在する規模の経済性により、当初は銀行が所有する公益事業会社、現在は事務処理及び加盟店契約サービスを提供する独立した商業企業が現れてきました。これらの企業は、2つの戦略のうちの1つを追求しています。既存の商業銀行インフラを1つ屋根の下に統合し、システムとコストの合理化からシナジー効果を生み出すか、あるいは1つの統一された一連の技術を運営して自律的に顧客を獲得するか、のいずれかです。アディアン(Adyen) 、ストライプ(Stripe) 、ペイパル(PayPal) のような企業は第2の戦略を追求し、経済面において非常に魅力的な力強い成長を見せ、バリエーションを上昇させました。同時に、より妥当なPER(株価収益率)水準で取引されている第1戦略の統合企業の中には、合理的な値付けや統合スキルの向上に基づいて、優れた進歩を遂げているところもあります。
発行体 - 銀行やクレジット会社の中に埋没
ほとんどの発行業務は銀行やクレジットカード会社が行っています。時には、規模の経済を得るために部分的な処理を外部委託しますが、インターチェンジ・フィー(上記の$0.60-$1.30)を得ることができる中核的な発行活動は自らが行います。カード発行は非常に魅力的なリターンをもたらすものの(なお直接的あるいは間接的にどれだけのインセンティブを与えなければならないかによってリターンに多少のばらつきがある)、これらの活動は組織の経済性を推進するのに十分なほど大きなものになることは稀です。
データ – 次世代フロンティア
現在の投資事例は、本質的に固定費中心のビジネスを統合することの恩恵に基づいています。これに加え、決済業界は付加価値の高いサービスを構築するための基礎になる、他に類を見ない宝の山のようなデータを提供しています。
たとえば、ファーストフード・レストランはレストラン内に売店を置き、カウンターで食料品を注文できるようにしています。顧客はより価値の高い、もしくは多くの商品を売店で注文する傾向があります。おそらくこれは、列に並ぶ後ろの人々からの圧力が少ないと感じることができるためでしょう。同様の傾向が、アプリの利用にも起きています。ファーストフード店が既存の顧客動向に基づいて売店の投資収益率を予測するのに役立つツールを、作成することは大きな価値をもたらす可能性があります。
この業界での最終的な成功は、誰が最高品質のデータを生成できるかによって決まるでしょう。理論的に、カード発行と加盟店契約の両方を1つの傘下に持ついくつかの大銀行は、最善の設備を備えているはずです。しかし、そのためには、しばしば別々の部門(リテールおよび商業銀行)をまたいで統合し、既存システムを大幅に改良、統合する必要があります。歴史的にみて、銀行、特に既存の銀行は、こうした種類の課題に苦しんできました。カードネットワーク会社は、はるかに深い一連のデータを保有しています。しかし、カード決済の中心における彼らの役割は、単なる処理だけではなく、加盟店契約会社とカード発行会社の間の仲介者であり、ルール作成者でもあります。データに関して競合するならば、調停者としてとどまるのは難しいでしょう。
一部の加盟店契約会社は、付加価値のあるサービスを提供しています。銀行と同様に、システム構築は成功に不可欠であり、統一された一連の技術を有する者が有利になるでしょう。最近確立されたApplePayやGooglePayのようなデジタル・ウォレットも、彼らが支払いデータを他のデータベースと統合できることを前提として、強力な地位にあります。
インプリケーション
ESGの観点からは、現金から電子決済への移行は、特に新興市場において、銀行システムへのアクセスを持たない人々を金融面で排除することにつながるかもしれません。ビザはこのことを強く認識しており、銀行口座を持たない個人が電子決済口座にアクセスできるよう支援しており、2020年までに5億人に提供することを目指しています。デジタルへの移行は、決済セキュリティの問題も引き起こします。ビザはデータ・セキュリティに多額の投資をしてきました。2019年のサイバーセキュリティ・プログラムのレビューでは、ガートナー・コンサルティングから同セクターで最高の格付けを取得し、また人工知能を活用し、約250億ドルの詐欺被害を防止しました。
ダウンサイド・プロテクションを重視する高クオリティ志向の投資家としては、ビジネスモデルの堅固性と規模の経済を考慮し、私たちは常にカードネットワーク会社に魅力を感じてきました。銀行と純粋なクレジットカード会社は、リターンが低く、レバレッジが高いため、私たちのグローバル・ポートフォリオにとっては興味の範囲外です。加盟店契約会社はより興味深いものの、統一された一連の技術を持つプレイヤーのバリエーションは非常に高くなっています。
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エグゼクティブ・ディレクター
インターナショナル・エクイティ運用チーム
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