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2023年インベストメント・アウトルック
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2022年12月27日

ESGに関する開示と責任投資の新たな枠組み

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2023年インベストメント・アウトルック

ESGに関する開示と責任投資の新たな枠組み

ESGに関する開示と責任投資の新たな枠組み

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2022年12月27日

 
要旨
1

2022年に発生した様々なイベントの結果、責任投資業界では変動が生じており、2023年以降は大きな変化が起きることが予想されます。

2

世界的な規模で、責任投資業界がより詳細なESGリサーチを行い、企業行動と財務的成果の関連性を立証する方向に動いています。

3

2022年に政府が策定したESG開示基準を受け、銘柄選択や企業へのエンゲージメント活動に関するより透明性のある一貫した枠組みを創り出す動きが生まれる見込みです。

 
 

世界が深刻な環境・社会問題に直面している中で、投資家はこれらの問題への対応に成功している企業が利益を生み出すと認識しています。こうした状況の下、ESG投資市場および責任投資市場はここ10年間で急速に拡大してきました。2022年に発生した様々なイベントを受け責任投資業界では変動が生じており、それにより今日、そして2023年に向けて大きな変化が起きると予想されます。

2023年以降も資本市場の参加者として重要な役割を果たすためには、責任投資を行う投資家はより詳細なESGリサーチを行う必要があると考えます。すなわち、企業業績に影響を与える環境要因および社会要因へのエクスポージャーを企業が正しく管理しているかを把握し、そのことが短期的および長期的に企業業績に及ぼす影響を分析することが重要です。様々な観点からリサーチを行い、企業のESG面での行動と企業業績の関連性を明らかにすることにより、適切な銘柄選択とESGアクティビズムを含む企業へのエンゲージメント活動に向けた有益な示唆が得られると考えます。

ESG投資を行う投資家に求められる情報開示の拡大

責任投資を行う投資家は長年にわたり、二酸化炭素排出量から職場での多様性に至るまで、様々な点で企業のESGパフォーマンスに関する透明性を高め、情報開示を拡大するよう企業に働きかけてきましたが、現在ではこれら投資家が自らのリサーチ手法の透明性を高めることが極めて重要となっています。即ち、これら投資家は、企業のESGパフォーマンス、企業業績、銘柄選択、企業へのエンゲージメント活動およびアクティビズムの結果、といった様々な要素の関連性を明らかにすることを求められています。

コーポレート・ガバナンスを理解することは、あらゆるタイプの投資家にとって引き続き重要な課題です。一方で、2023年以降は、綿密かつ詳細な責任投資リサーチやエンゲージメント活動を行うことが、ESGや責任投資ビジネスにとって最も重要な要素になると考えます。

これを成功させることができる責任投資チームや企業は引き続き成長し、投資家の市場シェアを獲得し、世界の資本市場における参加者としての重要度を増していくでしょう。

新たな責任投資の枠組み

2022年に起こった様々なイベントは、責任投資やESGリサーチに大きな影響を及ぼす可能性があり、また、急速に変化する投資環境に対応するための枠組み形成を促進すると考えます。非常に大きな様々な地政学的イベントと、責任投資を対象とする意欲的な政府の規制とが相まって、市場参加者は新たな現実への対応を迫られています。

様々な地政学的イベントが起こる中で明らかになったことは、このような状況下では個々の主体(人、企業、国)は自らの利益のために行動し、必ずしも国際社会の長期的ニーズを満たすために行動するわけではないということです。このような行動は、人類の共有財産に影響を及ぼす問題(気候変動や新型コロナウイルスなど)を社会が解決することを非常に困難にするものであり、実際、現在の複数の状況がそれを証明しています。ロシアのウクライナ侵攻や、中国と西側諸国の多くとの対立、豊かな国と貧しい国における新型コロナウイルス対応における乖離、気候変動への効率的な取り組みにおける経済大国の不十分な進捗状況などがその良い例です。

これらの大きな課題に対する自発的かつ市場主導の解決法を見出したり、より綿密かつ詳細なESGリサーチおよびエンゲージメント活動に対する必要性を把握するためには、このような現実を理解することが先決です。そして、課題解決に向けて実行可能な解決法を推進すると同時に、投資家に優れたリターンを提供する企業を見極めることが重要となりますが、他の企業と区別してそれら勝者となる企業を見出すには、徹底的なESGリサーチが必要となります。

2022年に政府はESGおよび責任投資に関する基準を設定し、貿易政策および産業政策への介入も行いました。こうした政府の行動は、詳細なESGリサーチおよび自発的な市場主導の解決策への移行がどのように進行しているか、また2023年にはそれらが重要性を増していく可能性があることを明確に示しています。例えば、米労働省の新たなESG規則である「プランの投資選択および株主の権利行使における思慮と誠実さ(Prudence and Loyalty in Selecting Plan Investments and Exercising Shareholder Rights)」の導入により、企業業績に重要な影響を与える要因に重点を置く詳細なESGリサーチの必要性が明確となっています。この規則は、今後の責任投資に関する初歩的な基準を設定するものです。また、欧州連合(EU)は、サステナブル・ファイナンス開示規則(SFDR)を導入し、運用会社が責任投資に対するアプローチを定義するために必要な対応を明確にしました。これらの規則に加え、英国、EUおよび米国において進行中の強制措置により、責任投資を行う運用会社やその商品はESGリサーチや投資プロセスに関する現実的な期待感や高い透明性を投資家に提供しなければならないことが明確になっています。

より強固な資本市場

ESG投資に関するリサーチの深化、ESGと企業業績との関連性の明確化、責任投資プロセスの透明性向上の影響として、より絞り込まれた範囲での競争の激化がすでに生じています。即ち、運用会社はマーケティング上の主張を調整し、投資家は詳細なデューデリジェンスを実施しています。同時に、こうしたESGリサーチの対象となる企業は、公の場で発表する内容を調整し、持続可能性関連の資本投資に対する財務規律を強化しています。

この結果、資本配分が強化され、資本を上手く管理できる企業と管理できない企業の間に測定可能な違いが生まれ、資本市場の機能が高まると考えられます。透明性を高め、情報開示を拡大し、企業業績への注目を高めることは、市場主導の解決策が成功を収める上で必要な土台であり、これは私たちが2022年に経験した世界の現実と一致するものでもあります。私たちは個々の主体が自らの利益を優先するために行動することを目の当たりにしており、政府は努力しているものの主導権を発揮できていません。力強い資本市場機能はこうした状況に対抗し、社会のニーズを喚起しつつ投資家に対して競争力のあるリターンを提供できると考えます。

 
 
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2023年以降は、綿密かつ詳細な責任投資リサーチやエンゲージメント活動を行うことが、ESGや責任投資ビジネスにとって最も重要な要素になると考えます
 
 
john.streur
Chairman
 
 

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