フラッシュ・レポート
2017年の商業用不動産の見通し
 
 

フラッシュ・レポート

2017年の商業用不動産の見通し

 

世界のマクロ経済環境は金融政策、デフレ、低成長から、財政出動、リフレ、高成長へとシフトしつつあります。経済成長がより拡大するとみられる一方で、各国の金利差が拡大するなか為替変動は大きいまま、地政学的なイベント・リスクが高まると予想されます。こうした環境のなか、国によって経済成長の牽引役や直面する課題が異なるため、不動産市場および資本市場においても、国ごとに大きく異なる環境となりそうです。さらには、人口動態やテクノロジーのシフトといった構造的トレンドの変化が、成長のパターンと投資戦略に引き続き影響を及ぼしています。モルガン・スタンレー不動産投資チーム(MSREI)は、市場でボラティリティと不透明感が高まっていることに加えて、これらの要因が不動産投資において世界的に有利な環境をもたらす可能性があるとみています。

 

マクロ経済環境

2017年は世界経済の回復が勢いを増し、過去の平均的な水準に向かって成長率が上昇する見込みです。その背景として、米国における成長の加速と、コモディティ価格の回復による新興国のモメンタム改善があげられます。年初来でみると、景気サクルでポジションが変更した国は数か国となりました。米国の経済成長は、まずまずの水準から今や加速局面に入ったもようで、英国とイタリアは減速、ロシアとブラジルは「修復」過程にあります。世界経済の成長加速を受けて設備稼働率が上昇、雇用が完全雇用に向けて、もしくは完全雇用を上回る水準にまで押し上げられることで、賃金成長が力強さを増すものと考えられます。同時に、コモディティ価格の一段の上昇と財政支出の拡大を背景に、米国や英国など一部の国でインフレ圧力が高まることが予想され、国によって金融政策にバラツキが出てくると予想されます。経済は一段と均衡のとれた成長を遂げているものの、景気サイクル後期における財政出動や、FRBによる利上げペースの加速、グローバリゼーションの巻き戻しが幅広く発生する可能性などから、依然として深刻なリスク要因が存在します。

米国では、財政出動(減税、インフラ投資)、米国への資金回帰、規制緩和の効果が相まって、経済は加速期に入るとみられますが、そのためには新政権が通商政策を幾分軟化させることが前提となります2。景気サイクル後期における財政出動は、より積極的な金融政策の導入を招きかねず、財政状況がひっ迫することもあります。欧州では、英国のEU離脱(Brexit)は今のところ景気に悪影響を及ぼすには至っていませんが、政治的な不透明感が依然として色濃く漂うなか、今後数年にわたって経済成長の足かせとなることが懸念されます。こうした環境において、量的緩和の延長と財政出動の拡大が、経済を下支えすることになりそうです。英国は、国民投票でEU離脱が決定した後も足下の経済成長は引き続き堅調ですが、投資の減少や個人消費の減速によって、いずれ成長が減速するとみられます。個人消費が減速するとみられるのは、企業が雇用に慎重になることに加えて、インフレ率の上昇が見込まれるためです。日本では、財政出動と世界的な景気回復に後押しされ、経済成長の加速が期待されます。円安と原油価格の安定を受けて、インフレが再び加速し、企業収益の改善につながる公算が大きいと思われます。中国経済は、住宅部門の冷え込みにより減速基調をたどるとみられるものの、財政支援によって住宅市場の低迷の影響を一部埋め合わせることができそうです。インドでは、堅調な人口動態要因が追い風となり、景気が幅広く回復するでしょう。

 
 
 
 

構造的トレンド

構造的トレンドはいまや世界において、経済成長のパターンや投資戦略に一段と重要な役割を果たすようになっています。人口高齢化、ミレニアル世代(1980年代半ばから2000年頃に生まれた世代)の興隆、中堅所得層の拡大、都市化の流れといった人口動態的なトレンドが、生活様式や支出および働き方の選好を変え、住宅、商業施設、オフィスセクターに魅力的な機会を創出するでしょう。

一方、技術の進化や人々の移動の傾向が、伝統的な不動産セクターを大きく揺るがし続けています。Eコマースは小売りと物流の垣根を曖昧にし、ショッピングセンターの業績の二極化を引き起こしています。オートメーションの推進は、オフィスを使用する伝統的なセクターの効率性の改善につながっています。さらに、ビッグデータや高度分析の活用によって、クライアント固有のニーズにカスタマイズしたサービスの提供を可能にしており、このような不動産会社は競合他社をアウトパフォームしています。また、技術の進化を背景に世界は結びつきを強めている一方で、保護主義の高まりによってグローバリゼーションがもたらす恩恵を一部帳消しにしかねません(グローバリゼーションへの流れは、大統領選の前から暗礁に乗り上げつつありました)。こうした流れは貿易や移民に依存している国に対して打撃を与えることでしょう。

 
 
 
 
 
 
 

不動産市場への影響

マクロ経済環境は改善しつつある一方、不動産市場においても、景気サイクルの異なるステージに位置する国(4ページの図表4を参照)ごとに改善にばらつきがみられます。地政学リスクが高まり、構造的トレンドがシフトしているといった現在の環境において、どの地域においても魅力的なリスク調整後リターンが創出される機会が台頭していると思われます。グローバル金融危機から脱却後、先進国の大半で景気が回復し、金利が低下基調となったことを追い風に、不動産は魅力的なリターンを達成してきました。その最大の牽引役となったのがキャップ・レートの低下です。結果として大半のセクターで足下のバリュエーションは著しく上昇しており、今後のリターンは控えめな水準にとどまるとみられます。しかしながら、米大統領選の結果や英国のEU離脱、そして欧州各国における政治的展開の本格的な影響がグローバル不動産市場にも波及すると想定され、これらの動向次第で魅力的なリスク調整後リターンが創出されるとみています。

米国の投資環境は、少なくとも短期的には、「低成長、低金利が長期的に続く」との見方から、「高成長、金利上昇」に移行すると考えられています。金利上昇はキャップ・レートの上昇を招くとみられますが、現時点では、経済成長の加速に伴って賃料とNOI成長率が力強い伸びを示し(供給が限定的なため)、これにより不動産価値が下支えされると期待されます。加えて、キャップ・レートとリスク・フリー・レートのスプレッドは、大半の市場において平均を上回ったままで、金利上昇に対するクッション役を果たすと考えられます。

我々は、足元の経済成長が幾分でも力強さを増せば、現在の堅調な入居率を背景に、今後、賃料成長が加速する可能性があると考えており、それにより資産のリポジショニングの機会が創出されるでしょう。一方で、金利上昇とドル高による金融情勢の一段のタイト化を受けて、一部で流動性が逼迫し、差し押さえが浮上する事態も予想されます。

こうした状況下、供給過剰に直面しているセクター(高級住宅やホテル)や、需要の冷え込みに直面しているセクター(コモディティおよびテクノロジー市場)において、魅力的なリキャピタリゼーションの機会が創出される可能性もあります。さらには、eコマースのテナントはラスト・マイル(配送センターから顧客までの距離)における配送ニーズを満たす方法を探っていますが、このようなテナントを対象に、近代化されたフルフィルメント・センター(通販業における商品の管理・ピッキング・配送などの拠点)の開発を促す機会がもたらされるかもしれません。経済成長の加速に伴う小売売上高の拡大、減税、賃金の上昇、消費者信頼感の回復、eコマースの普及といった要因が、このような流れを促すと思われます。最後に、物件不足に直面している住宅セクター(既存の販売住宅の在庫は2000年以降で最低水準)も、極めて魅力的な機会を提供しているとみられます。とりわけ物件不足が深刻化しているのは、初めて住宅を購入する層です。人口動態要因(年間100万世帯以上が新たに形成されていることや、ミレニアル世代の選好シフトが背景)や景気回復が追い風となり、これらの層で需要が伸びています。

 
 
 
 
 
 
 

英国および欧州では、資本フローの減速とBrexitに伴う低成長環境は、健全なインカム・プロテクションを提供するディフェンシブなキャッシュフロー戦略にとって追い風になると思われます。欧州では、債務削減を進めているイタリアの銀行や、パリなど欧州のいくつかの市場で資本不足に陥っているホテル企業が、投資や資産運用または両方の必要に迫られ、より優良な資産を獲得するための機会を提供してくれそうです。英国では、やや困難な状況に陥っているロンドンの高級不動産市場が、引き続き魅力的なリキャピタリゼーションの機会を提供してくれるでしょう。同様に、ロンドンのオフィス・セクターも価格が一段と下落しており、買い手の存在も限定的なことから、少なからず魅力的な物件取得機会を提供していると考えられます。高成長を続けている中東欧諸国においても、賃料の回復、流動性の拡大、Brexitを背景とした主要都市と郊外都市間におけるイールド・スプレッドの拡大による恩恵を享受すべく、好立地の優良商業施設やオフィス資産などで、そうしたポジション変更の機会が見込まれます。最後に、米国と同様、スペインにおいても、魅力的な住宅市場の開発機会が存在するとみられます。それらの国では、金融危機のさなかで不動産市況が大幅に悪化しましたが(国によってはピークから30 ~ 70%の下落、新規住宅着工件数はピークから95%減少)、ここにきてようやく価格が回復に転じたところです。

 
 
 
 
 
 
 

アジアは、中国およびインドを中心に引き続き長期的な成長が見込めると考えています。これらの国では、都市化の進展、中堅所得層の形成、サービス・セクターの伸びが成長を牽引しそうです。とりわけ、これらの成長市場における開発パートナーシップにより、消費関連セクターやサービス・セクターと関連の深い商業施設、物流、オフィス等のセクターにおいて、魅力的なリターンを創出すると考えられます。日本では、日米金利差の拡大によって円安になる可能性がありますが、輸出業と観光業にとっては追い風となり、ホテルおよび商業施設セクターを下支えするとみられます。アジア先進国(日本およびオーストラリア)では価格が大幅に上昇していますが、オフィス賃料の伸びは依然として堅調で、魅力的な価値創出の機会を提供しています。とりわけ、日本、シンガポール、オーストラリア、韓国のオフィス賃料水準は、前回のピーク水準を依然として下回っており、賃料回復の恩恵を享受すべく、クラスA–/B+資産のリース・アップやリポジションの機会が見込まれます。加えて、アジアではeコマースの普及と成長率が米国および欧州を凌いでおり、物流セクター開発の機会が提供されています。最後に、シンガポール、パースなどの通商およびコモディティ関連市場の一部では差し押さえの兆候が浮上し始めており、ファンダメンタルズの悪化に伴って価格が調整しつつあります。米国および英国の一部の住宅市場と同様、シドニーやメルボルンでも差し押さえが台頭し始めています。これらの市場では政府が住宅市場の減速を試みるなか、デベロッパーが資金不足に直面しているため、潜在的なリキャピタリゼーション機会が生まれつつあります。

結論

過去数年間と比較して、今後数年間の投資環境は、様々な国やセクターで異なる投資機会が創出されるとみられます。多様な成長の牽引役、市場サイクルにおける異なるポジショニング、異なる金融政策がもたらす相対的な価格の非効率性が、英国、欧州、アジア各地域で魅力的なリスク調整後リターンを提供すると考えています。

 

1 景気サイクルにおける主要国のポジションは、各国がそれぞれの景気サイクルのどの段階に位置しているかの定性的評価に基づきます。

2 出所:モルガン・スタンレー・リサーチ、2016年11月

3 市場サイクルのポジショニングは、国ごとに入手可能な定常的な一連の不動産関連指標に基づいて開発した社内ツールを用いて運用チームが構築したものです。目的は、市場パフォーマンス、以前のサイクルのピークおよびボトムと比較した市場のポジショニング、転換点、投資戦略へのインプリケーションなどを見極めるための要因を特定することです。マクロ経済指標および商業用不動産関連データの発表と合わせて、四半期ごとに更新しています。本ツールでは、一般に当該国で入手可能な不動産ファンダメンタルズおよび資本市場関連指標(賃料、入居率、キャップ・レート、スプレッド、流動性、バリュエーション指標など)を使用しています。指標のほとんどは予測データではなく、「実際の」データに基づいています。入力項目や想定が異なれば結果も異なります。市場サイクルのポジショニングは「将来の予想」に基づく想定です。様々なリスクや不確実性により、実際の事象や結果は、こうした「将来の予想」に基づく想定に反映されている内容や考慮点とは大きく異なることも考えられます。

重要事項

当資料の複製、公衆への提示・引用および販売用資料への利用はご遠慮ください。当資料はモルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントが海外で発行したレポートを邦訳したもので、すべてのデータはモルガン・スタンレー不動産投資チームによるものです。邦訳に際してその解釈や表現に細心の注意を払っておりますが、邦訳による解釈や表現の違いが生じる場合は英文が優先し、我々は一切の責任を負いません。当資料に含まれる情報等の著作権その他のあらゆる知的財産権は我々に帰属します。我々からの事前の書面による承諾なしに、当該情報を商業目的に利用することを禁止します。

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CRC 1717877 Exp. 02/24/2018